東日本大震災「3・11」は今も大きなテーマだが、関連出版物のカバー範囲は被災の中心部から周辺の少し深い話へと広がった。『みんなで決めた「安心」のかたち』(五十嵐泰正+「安全・安心の柏産柏消」円卓会議著、亜紀書房)は、福島第一原発から200キロ離れた東京郊外の記録だ。
放射性物質の「ホットスポット」とされた千葉県柏市の農家と消費者。安心しきっていた消費生活の価値と危うさを本にこめた。【2013年1月6日(日)の各紙からII】
顔つき合わせてウェブやイベントを
食品汚染への戸惑い、検査や行政への不信感。答えのない「神学論争」を超えて、地域の安心感を「再獲得を目指す軌跡」の一冊だと、福島大特任研究員の開沼博さんが読売新聞に。長い著者名の円卓会議は、地元の町おこし団体や農家、スーパー、飲食店関係者、主婦ら多様なメンバーによる話し合いと行動の場だ。
ときには「もう農業をやめろってことですかね」との発言もあったそうだ。試行錯誤の中から生産者と消費者が作物や農地の線量測定をし、ウェブやイベントを通して情報発信してきた。信頼や安心感は、顔をつき合わせた人間同士の関係に根づくということか。
「3・11が風化しようとする今、読まれるべき論考だ」と開沼さんは評している。
隣の欄には『福島の美術館で何が起こっていたのか』(黒川創編、SURE)が。福島県立美術館で予定されていたアメリカの画家ベン・シャーンの巡回展が原発事故で中止に。作品貸し出しをアメリカ側からことわられたのだが、「釈然としない思いは残る」と評者の西洋美術史家・岡田温司さん。この分野も、原発事故に振り回された。
ささやかな問題提起の読書面であっても
こうした原発事故からの回復問題を読書欄が地味でも着実にとり上げる一方で、同じ日の読売一面は「再稼働容認首長54%」の大見出し。原発30キロ圏の市町村長にアンケートした結果だそうだ。大半が「条件つき」というが、政府による判断や周辺自治体の理解など当たり前のことばかりで、実質的には再稼働OKのサインともとれる。
影響力絶大な一面がまるきり「原発推進新聞」とあっては、十数ページあとの読書面はなんともささやかな問題提起だ。それでも人は原発事故から立ち直らなければならない。
『瓦礫の下から唄が聴こえる』(佐々木幹郎著、みすず書房)が毎日新聞に。大震災の後、詩人の著者と津軽三味線の二代目高橋竹山さん(女性)が釜石、大船渡、陸前高田の仮設住宅を回った。演奏と詩の朗読をしながら、想像を超す惨事から生き残った人を前に「緊張の連続だった」「舞台の上で身震いした」という体験を川本三郎さんが紹介している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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