新年の読書面は、大ぶりなトップ記事よりも小さなコーナーが目を引いた。「年が改まっても、われら仕事人の悩みや迷いが消えるわけではない」とは、朝日新聞のビジネス本紹介欄の書き出しだ。そこにある『今、ここを真剣に生きていますか?』(長谷部葉子著、講談社)は、学者には珍しいユニークな経歴の著者が学生や社会人の夢を応援する一冊。新春の読書、これで励まされる若者がいたらいいな。【2013年1月6日(日)の各紙からI】
ビッグママがくれる安心感
著者はかつて不登校やいじめを体験、大学受験にも失敗。その問題意識から20代半ばで私塾を立ち上げ「子どもたちを活かす教育」に取り組みながら35歳で大学に入学した。40代で大学院を修了して、今は慶応大学で「教育」と「コミュニケーション」のゼミを持つ准教授(主に出版社のサイトなどから)。
離島やコンゴでの異文化交流などで学生を引っ張る姿から、「SFCのビッグママ」との別名も朝日は紹介している。SFCとは慶応の湘南藤沢キャンパスか、知らない読者のために記事に親切に書けよと言いたくなるが、それはともかく、ご本人は大したバイタリティと指導力の持ち主らしい。
そのビッグママがコミュニケーションをうまくやりたいと願う若者らに強調するのは、発信する力より受け止める力がまず必要ということ。「目新しいことが書かれているわけではないが、指南は仕事の基本」「読み進めるうちに、なぜか大きな安心感に包まれていく」と、評者の清野由美さん。
本には「迷いから抜け出す」「夢を見つける」「社会貢献という隠れ家」といった目次がならぶ。生き方・働き方論という今や読者ニーズあふれるジャンルに指針の一石を投じるメッセージだ。教え子の社会学者古市憲寿さんが推薦の言葉を寄せている。
笑いは人の生きる力になりえるか
心の悩みを持つ人は増えているが、相談にのる精神分析家は日本ではまだ30人ぐらいしかいないらしい。その一人、藤山直樹さんが著した『落語の国の精神分析』(みすず書房)が読売新聞に。
噺「寝床」「らくだ」「粗忽長屋」などを論じて登場人物の行動や言葉を読み解いていくのだが、「読者はむしろ人間の心の複雑な動きを知るだろう」と評者の松山巖さんが薦める。
著者自身が無類の落語好き、素人ながら高座に上がる。笑いは人の生きる力になりえるだろうか。現代社会と人生の問題アレコレを誰もが明るく乗り切れる一年にしたいものだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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