2012年の世相を表す漢字は「金」だった。ロンドン五輪での日本選手の活躍や山中伸弥・京大教授のノーベル賞受賞など明るい話題もあったが、尖閣諸島や竹島問題では周辺情勢が緊迫、デフレ不況の中で行われた解散・総選挙では自民党が圧勝し政権復帰を果たすなど国の内外で大きな変化があった。
このコーナーではその時々の話題を追いながら1月以来50冊近い本を紹介してきたが、改めて1年を振り返るとともに新しい年を展望しながら、2012年の気になった3冊を挙げてみた。J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」(https://books.j-cast.com/)でも特集記事を公開中。
人類は核エネルギーと共存できるのか
『原子力 その隠蔽された真実 人の手に負えない核エネルギーの70年史』
広島、長崎への原爆投下を受けた日本は戦後復興へ向けて国策として核の平和利用へ歩み出す。だが、築き上げたはずの原発の「安全神話」は、福島原発事故によりもろくも崩れ去った。飛鳥新社の『原子力 その隠蔽された真実 人の手に負えない核エネルギーの70年史』(著・ステファニー・クック、訳・藤井留美、2415円)は、核開発の歴史を辿りながら人類と核エネルギーの関係に根源から迫る。
作家の池澤夏樹は解説でこう語っている。「フクシマで起こったことはすべて既にどこかで起こっていた。それが明らかになるから、この精緻なレポートは却って恐ろしいのだ。フクシマは偶然ではなく必然であったとわかるから」。日本版特別章として「3・11 巨大地震の襲来」を加筆収録している。
再生医療実現の日はいつになるのか
『iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?』
「1日も早く医学への応用を実現させなければならない」。iPS細胞の生みの親でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授が講演や記者会見のたびに繰り返す言葉だ。再生治療の切り札といわれるiPS細胞が、世の中の患者の救済に実際に役立つ日はいつやってくるのか。日本実業出版社の『iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?』(編著・田中幹人、1575円)は、iPS細胞のもたらす再生医療の可能性や問題点に正面から答える。
トカゲのしっぽは切れても生えてくるが、iSP細胞にも同じようなことが期待できるのか。人工血液やクローン人間は実現するのか。近未来の社会はどう変わるのか。さらには日本の研究体制は世界に太刀打ちできるのか。最先端の研究成果の明るい部分だけでなく、課題にも焦点を当てた。
北朝鮮のミサイルは日本に来るのか
『もしも日本が戦争に巻き込まれたら! 日本の「戦争力」vs.北朝鮮、中国』
日本は戦後67年、平和憲法のもと他国と武力紛争を起こしていない。だが、領土・領海をめぐる動きやミサイル問題など最近の近隣情勢から安全保障に対する関心が高まっている。他方、メディアも含め、安全保障や軍事面での基本的な知識が不足しているとの指摘もある。そこで、多くの人が抱いている素朴な疑問にわかりやすく答えようというのがアスコムからの『もしも日本が戦争に巻き込まれたら!日本の「戦争力」vs.北朝鮮、中国』(著・小川和久、坂本衛、1000円)だ。
尖閣沖での中国漁船衝突事件はどう対応すべきだったのか、中国海軍は太平洋に進出する力を本当に持っているのか、北朝鮮のミサイルは日本に来るのか、などの疑問について政策にも詳しい熟達の軍事アナリストがQ&Aでズバリ答える。