メイド・イン・フランス製品購入の機運が高まり、極右政党が支持票を集め、税金逃れに祖国からベルギーへの移住を宣言した国民的俳優が批判の的になり……。2012年のフランスを振り返る上で「愛国心」は欠かせないキーワードのひとつだ。
2月に、フランスで不況対策に自国製品を買おう、という機運が高まっているというコラムをこの欄で書いた。しかし、「雇用を守り、経済活性化を図るために『メイド・イン・フランス』を率先して買おう」をスローガンに、大統領選に臨んだ中道派のフランソワ・バイルーは、落選。4月に行われた第1回投票で、バイルーを上回り、17.9%の得票率で3位につけたのが、極右政党である国民戦線党の女性党首マリーヌ・ル・ペンだ。
女性党首ル・ペン、父超える得票率
同党の創設者でマリーヌのパパであるジャン・マリー・ル・ペンに比べればカリスマ性は低いし、女性蔑視の傾向があるフランスで、女性候補はどうかな?と思っていたが、蓋を開けると、パパが2002年に第1回投票で2位になった時(16.9%)よりも高い得票率だった。メイド・イン・フランスどころか移民排斥、反ヨーロッパを掲げる、愛国主義というより国粋主義的な党が高い支持を得たのだ。
今回の大統領選は、フランソワ・オルランドが5月に行われた第2回投票を制し、17年ぶりの社会党大統領の誕生となった。景気の低迷は続き、財政難の打開策として発表されたのが、年収100万ユーロ(約1億1000万円)を超える人に75%の所得税を課すという法案。その直後9月に、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)会長のベルナール・アルノーがベルギー国籍を申請し、「税金逃れが目的」と言われたが、本人はそれを否定し、フランスで税金を払い続けると宣言した。
ベルギーに移住するフランス人富豪が増えている?
12月に入り、クリスマス商戦が始まり、再び、プレゼントにはフランス製品を買おう、という声が上がり始める。TVニュースでも、おもちゃ屋で、フランス製で国内産の木材で作った玩具にこだわって購入する客が紹介されたり。
そんな中で、フランス映画界を代表するスター、ジェラール・ドパルデューが税金逃れであることを隠さずに、隣国ベルギーへの移住を公言した。フランス語が通じるベルギーに移住するフランス人富豪が増えているらしい、という噂はあった。しかし、国民的俳優ドパルデューに関しては、ジャンマルク・エロー首相が「ろくでもないことだ!」とテレビで発言したのをはじめ、有名歌手や俳優たちが非難派と擁護派に分かれ、大論争となっている。ドパルデュー事件と名付けられたこの騒ぎ、年の瀬になっても、落ち着く様子がない。
江草由香