我が国の名門半導体企業のルネサスを米国ハゲタカ(?)ファンドのKKRが買収する意向との報道に先日接し、思わず本書を再読した。KKRは、米国食品大手ナビスコ社の経営陣が1989年に仕掛けた自社買収(MBO)に対し、敵対的買収で参戦したプライベイト・エクイティ・ファンドであり、本書はその買収劇の顛末を描いた企業ノンフィクションの古典。
『BARBARIANS AT THE GATE』(ブライアン・バロー、ジョン・ヘルヤー、邦訳:『野蛮な来訪者 RJRナビスコの陥落』)。20年以上前に出版され、今でも世界のロングセラーである。邦訳は絶版だが、日本の若いビジネスマンの方にはぜひ原書を読んでいただきたい。
米国企業人のアクの強さと市場原理主義のダイナミズム
本書を読んで感じるのは、米国企業人のアクの強さ、そして市場原理主義のダイナミズムである。とにかく、登場人物たちのキャラが立っている。MBOを仕掛けたナビスコ社長のジョンソンは、カナダの片田舎出身ながら米国企業を渡り歩いて全米第19位の超名門企業のトップに上り詰める。彼は、24のゴルフ会員権を保有し、10機もある通称「ナビスコ空軍」の社有ジェット機を自分の飼い犬の移動のために使用するなど、絵に描いたような「強欲経営者」。その一方で、人懐こく冗談が得意なお祭り男、政財界に人脈を張り巡らせ、政商として君臨する。
対するKKRの若き総帥クラビスは、猛禽類の目を持つ情熱家。さらに、「マフィヤのボス」あるいは「狂犬」と綽名されるような、さまざまなウォール街のプレイヤーたちが登場し、26億ドルの買収案件を巡って、大乱闘を繰り広げていく。
買収劇の推移は、「事実は小説より奇なり」を地で行く逆転劇の連続。KKRの参戦、そして第三勢力(ファーストボストングループ)の突然の登場で、ナビスコ経営陣の仕掛けたシナリオは狂い、ガチンコの白兵戦に突入していく。この間、株価は50ドルから100ドルまで跳ね上がっていく。