全世界で4億5000万冊も売れたという「ハリー・ポッター」シリーズ完結から5年、作者のJ.K.ローリングは、前作とは異なり大人向けの本格長編小説『カジュアル・ベイカンシー』を2012年秋、発表した。
イギリスの高級紙「ガーディアン」によれば、「売り上げは3週間で100万部を突破し、『ニューヨーク・タイムズ』紙の書籍ランキング(11月17日付)では、6週連続ベスト3入り(ハードカバー・フィクション部門)を記録している」という快進撃を見せている。
書きながらこんなに泣いたことはない
気になるストーリーだが、現代イギリス西部の小さな町で起こる群像劇だ。一見のどかなこの町で、ある地方議員の男が40代の若さで突然亡くなったことをきっかけに、立て続けに不穏な事件が起こる。その過程で、ごく普通の住民たちの内面が次々と暴かれてゆくというサスペンス・ドラマだ。
現代社会の矛盾をもあぶり出すような、胸が締め付けられる結末だが、その後、じわじわと希望がこみ上げてくる。やはりこのベストセラー作家の力量は尋常ではないと感じさせる。
J.K.ローリングは、フランス女性誌のインタビューで、「私は作品を書きながらこんなに泣いたことはない」と答えている(「エル・ジャポン」1月号)。
この大人向けの本格長編がベストセラーになっていることを見れば、「ハリポタ」が爆発的にヒットしたのは偶然ではなかったことがよくわかる。それは著者のストーリーテリングの巧みさと、登場人物を描く筆力が並外れていたからだろう。
この作品の日本語版が12月1日、講談社から上下巻で刊行されたが、英米同様にベストセラーになるのかどうか、注目される。