今年(2012年)の世界は政権交代ラッシュ。ロシアは国内の大反発もなんのその、名実ともにプーチン独裁政権へ回帰、米国では大中傷合戦を経てオバマが再選、フランスはポピュリズム宣伝でオランドが大統領に。一方、金融財政危機を乗り切れないEUや米国、学級崩壊で国益を根本的に損ねた日本、いずれの国も政権交代はしても「民主主義の罠」にはまり身動きがとれないようだ。
そういったなか中国では熾烈な権力闘争を経て習近平が総書記に就き、国家主席就任が実質的に決まった。中国は事実上、共産党独裁国家でありながらロシアや他の独裁国家とは違い、足腰のしっかりした驚異的な経済発展を遂げている。ルーピーと酷評されたどこぞの首相と違い、外交上の立ち居振る舞いも極めて筋が通っている。どういう仕掛けでルーピーでない国家運営のできる指導者が選別されるのだろうか。そういった思いで読み始めたのが『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』(遠藤誉著 朝日新聞出版)だ。
すさまじい中国の権力闘争
すさまじきは権力闘争。薄煕来事件は世界の耳目を集めたが、薄煕来は重慶市の書記になるや否や、すぐさま前書記だった有力者、汪洋が抜擢した公安や司法関係者を逮捕投獄、80日間で3万件以上の刑事案件と摘発、1万人近くを逮捕、文強(司法局局長)を死刑にし、民間経営者らから汚職名目で2700億元を没収、それを唱紅キャンペーン(実質的に毛沢東礼賛運動)につぎ込み、なんとしてでも国家主席に上り詰めようとする。
権力闘争の背景にある中国社会の有様にも度肝を抜かれる。ある意味惚れ惚れするほど合理的に『欲』を追求、毛沢東のスローガン「前に向かって進め」は「銭に向かって進め」に置き換えられ、「愛人になる女子大生」の価格表がネット上で発表される。役人の家には金品を持参する者が門前列をなし、受け取らない役人は信用されない。下水道にたまった油をかき集めて作る再生食用油が出回り、乳児用粉ミルクにプラスチックの原料を混入して売り込む。