【書評ウォッチ】三島由紀夫を仏批評家が読む 隠され続けた「ひそかな願望」

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   シャープで切れ味豊かな美的作品で今も人気の作家・三島由紀夫。フランスの女性批評家による評伝を読売新聞が紹介している。晩年は右翼的な思想・活動に力を入れ、1970年11月25日に自衛隊市ヶ谷駐屯地(現防衛省敷地内)に侵入し割腹自決した異才・偉才の生涯。『三島由紀夫』(ジェニフェール・ルシュール著、祥伝社新書)は、心のひだにまで分けいって冷静に見つめた一冊だ。

   その文学といえば、「潮騒」「金閣寺」や「豊饒の海」四部作など。「鹿鳴館」「サド侯爵夫人」といった戯曲もある。先行き不透明な時代に、読み返してみるときの個性的な案内書になりそうだ。【2012年11月25日(日)の各紙からI】

特異な生い立ちから解釈すると

『三島由紀夫』(ジェニフェール・ルシュール著、祥伝社新書)
『三島由紀夫』(ジェニフェール・ルシュール著、祥伝社新書)

   この評伝は「癖のある作家の謎の多い生涯と難解な作品を、端正な文体でがっちりととらえている」と、評者の社会学者・橋爪大三郎さん。若い世代にも一読をすすめている。

   なんとも特異なのは、本に描かれた三島の生い立ち。病気の祖母に囲い込まれ、母親も手が出せなかったという。外出は許されず、女の子とばかり遊ばされた。やがて、自身、周囲の少年とまるで違うことに気づき、ひそかな願望を膨らませていく。浪漫主義や古典主義の意匠も、ボディビルや剣道に凝った肉体の鍛錬も、天皇崇拝の政治姿勢も、そうした願望をおし隠す「孔雀の羽根のようなものなのである」とする解釈だ。

   評者は、全共闘との討論などで殺害される事態も意識したという記述などについて「でたらめ」「資料に問題」と批判も隠さない。しかし、「三島の主要全作品を作家の内面のドラマまでさかのぼって明らかにし、淡々と論じていくさまは見事」とも受けとめている。

   独特の世界を構築し、過激な行動で世間を驚かせた三島の軌跡。本の分析には賛否両論があるだろうが、日本人の思想や情念に与えた生きざまを改めて考えさせる問題提起が海外から投げかけられた。

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