オープンから約1か月が経ったアマゾン・Kindle(キンドル)ストアで、意外な本が売れている。沢木耕太郎さんの紀行小説『深夜特急』の1巻だ。2012年11月21日午後時点で、同ストアの売れ筋4位にランクインしている。
「バックパッカーのバイブル」とも言われた名著とはいえ、30年近く前の本がなぜ売れたのか。種明かしをしてしまうと、その最大の要因は「価格」だった。
売れ筋上位大半が「300円未満」
当初、刊行元の新潮社では同作の価格を400円に設定していた。文庫版は452円で販売されており、「紙」とほとんど変わらない価格だ。しかし19日までに同社では価格を200円に改定、これをきっかけに売り上げに火がつき、ランキングを一気に駆け上った。
なんだ、結局は価格か――と鼻白むかもしれないが、事実21日午後時点の売れ筋ランキングを見ると、1位の『新世紀エヴァンゲリオン(13)』(貞本義行・GAINAX・カラー、角川書店)の280円を筆頭に、上位9作までが300円以下だ。ベスト50に範囲を広げても、300円以下のタイトルは23作とその約半数を占める。「安さ」に注目が集まっているのが、電子書籍の1つの現状だ。
逆に言えば「古くても、安ければ…」?
だが裏を返せば今回の売り上げ上昇は、『深夜特急』のような過去の作品でも、やりようによっては最近のベストセラーよりもよっぽど売れる、ということも示している。普通の書店では多少値下げしたところで、『深夜特急』が『のぼうの城』や『悪の教典』より売れるということはまずないだろうが、電子書籍ではそれが可能なわけだ。
Twitter(ツイッター)でも、「文庫で持ってんだけど、沢木耕太郎の深夜特急・第一巻をKindle本で買っちまった」など、同著を持っている、あるいは読んだことがあるという人でも、電子版を購入したという声が複数見られた。電子書籍業界の「商機」は、案外このあたりにあるのかもしれない。