数々のヒット曲を生みだしてきたポップスターが、音楽活動の迷いや思いをストレートに書きしるした。『やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』(桑田佳祐著、新潮社)が読売新聞に。
自選88作の歌詞とともにソロワークス25年間を語ったエッセイだが、書評はそのへんに触れず、曲作りの「言葉を大切にする姿勢」を国際政治学者の評者がひたすら読み解こうとする。世代の違いか、周辺環境の差異か、この組み合わせ、なんだか異種格闘技の趣が漂ってユニークだ。それでも実はまじめでおもしろそうな内容が垣間見える。著者と本の魅力なのかもしれない。【2012年11月4日(日)の各紙からII】
中原中也らの文章にメロディを
この人の曲作りはもともと「付け焼き刃的に歌詩(のようなもの)を考えていく」姿勢であったという。「文字数を埋めるため、比較的安易に英単語をつけ加えること」が多かったらしいと、評者・慶応大学の細谷雄一さんは紹介する。ところが「年を重ねるに応じて、言葉を大切にするべきだと考えるに至った」のだそうだ。
順風満帆な道のりに見える音楽活動も「試行錯誤や迷いの連続であったことが分かる」、破天荒なパフォーマンスとは対照的に「曲作りに挑む姿は真剣そのもの」と評価は高い。
転機となった曲を、書評はあげている。「声に出して歌いたい日本文学<Medley>」で、中原中也や高村光太郎の美しい文章に、桑田佳祐独自のメロディをあとからつけた。言葉が先にあるという、これまでとは反対のプロセスが新しい世界を開いた。その姿勢が東日本大震災の後に作られた「明日へのマーチ」などにつながり、「彼ならではの最高の優しい愛情表現」と評者は受けとめている。