『国家は破綻する~金融危機の800年』(カーメン・M・ラインハート&ケネス・S・ロゴフ著、日経BP社)。過去800年近くの間に世界66か国で起きた金融危機に関するデータ分析本である。一つ一つの金融危機は国も違えば、年代も違い、それぞれに異なる原因に起因し、異なる展開を示したのであろうが、過去に発生した金融危機に関する膨大なデータを解析することによって、インフレなどの他の経済現象が金融危機に相前後して発生する確率やその深刻さの平均値を把握・イメージできるようになる。
この本では、例えば、以下の(1)~(5)のような興味深い事実が、データ解析の結果として指摘されており、それらの指摘を敷衍すると、それぞれ以下のことが言えるのではないだろうか。
ギリシャとデフォルトの歴史
(1)政府債務を無理なく許容できる限界は、その国のデフォルトやインフレの履歴に大きく左右される。
日本の場合、1944年に国内債務の対GDP比率が236.7%となり、インフレ率が年率26.6%、1945年には国内債務の対GDP比率が266.5%となり、インフレ率が年率568.1%となったのが、我が国が政府債務を無理なく許容できる限界を推し量る上で参考になるのではないか。ちなみに、2011年12月にOECDが発表したエコノミックアウトルックによると、2012年(暦年)の日本の政府債務残高GDP比は219.1%となっている。
(2)ギリシャのデフォルト期間は、1800年以降の年数の半分以上におよぶ。ギリシャには、融資条件を遵守して対外債務を返済する歴史がなかったことがわかる。
「機会均等」の脅威
(3)銀行危機はどんな国にも起きる「機会均等」の脅威である。先進国では過去800年の全期間にわたって、銀行危機が頻繁に発生している。銀行危機の大半は、その前に信用ブームが起きている。また、金融部門の自由化から5年以内に銀行危機となるケースが多い。
我が国のバブル崩壊にも当てはまるのではないか。また、現在、邦銀の預貸率が低下し、邦銀の国債保有額が増加しているが、我が国の金融システムが金利上昇に対する脆弱性を蓄積している、ということも言えよう。
(4)銀行危機の場合、インフレ危機、通貨危機、債務危機が同時に発生する例が多い。大規模な銀行危機は長く深刻なリセッションを伴う。インフレ危機と通貨危機は、時代や国を問わずきわめて多くのケースで歩調をそろえて発生している。
債務危機でインフレが発生すると、対内的な通貨価値が低下する(例えば、1円の価値が下がる)が、対外的な通貨価値も同時に低下し、通貨安(円安)になるだろう。
「健全な危機意識」の必要性
(5)銀行危機後は、住宅価格の低迷がきわめて長く続く。平均で約6年下落が続く。リーマンショック後の米住宅市場の回復は、過去の銀行危機の平均値からすると、2014年後半ということになるだろう。
ジャック・アタリ氏がリーマンショック直後に刊行した「金融危機後の世界」(作品社)で、「ポジティブ・アティチュード」「ポジティブ・シンキング」というイデオロギーがリーマンショックの一因であり、大惨事(カタストロフ)を心配するようでは、リーダーになる資格はない、という考えが広まり、現実的視点からリーダーに危険の可能性を諭すことは、悲観主義と見なされて排された、と指摘されている。
翻って我が国の先行きを考えるとき、過度に悲観的になる必要はないが、内包されている危険性に目を閉じてもいけない、健全な危機意識を発揮しなければ、と自戒している。
経済官庁(課長級) 蜩
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