【書評ウォッチ】町工場は「誇るにたる仕事」 日本経済の精髄訪ねる

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   「ニッポンの製造業危うし」と言われて、だいぶたつ。たしかにグローバル化とデジタル化、新興国の追いあげ……景気にも雇用にも心配が広がる今、ものづくりの基本を中小町工場の現場から聞きとった『ネジと人工衛星』(塩野米松著、文春新書)がおもしろい。「誇るにたる仕事がある」「生き生きとした物語である」と、東京新聞で評者・福井県立大地域経済研究所長の中沢孝夫さんが紹介している。【2012年10月21日(日)の各紙からII】

ものづくりの基本とは

『ネジと人工衛星』(塩野米松著、文春新書)
『ネジと人工衛星』(塩野米松著、文春新書)

   著者は東大阪市・高井田地域の工場を歩き、金具、ネジ、鋳物、金型、さらに航空機や人工衛星の部品づくりまでを丹念に回り、機械や設備のメーカーにも足を運んだという。浮かび上がってくるのは、ものづくりが経験の蓄積によって支えられているという事実だ。

   書評は、一例として金属切削をあげる。機械さえあればできるわけではない。素材や形状によって最適な刃物を選び、機械の回転数や送りのスピードを設定しなければならない。

   図面をもらってする仕事があれば、図面を描くところから始める仕事も、受けとった図面を修正するものもある。仕事はさまざまで、どれも他に替えられない技術だ。ものづくりの基本は実に、「アナログの世界であることがよくわかる」と評者は読みとった。

   本には30年、40年と技を磨いた人とともに二代目、三代目も登場。リストラはしない、無借金経営といった心意気もちりばめられ、日本経済の貴重な資質が随所に見られる。

   いま「日本ものづくりの危機」と対極に「日本のものづくりはまだまだ大丈夫」式の観測が交錯する。悲観と楽観に一喜一憂する時期はもう過ぎて、かけがえのない技術を明日に生かす具体的なシステムを構築しなければという気にさせる。現場の匂い満載の本だ。

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