86歳著名絵本作家が今の世に問う 本の魅力と「自分で考える」大切さ

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   故司馬遼太郎さんの『街道をゆく』の挿画などで知られ、著書も多数ある画家・絵本作家の安野光雅さん(86)が新しい本を出した。「いくら時代がかわっても『本を読んで、自分で考えることが大切なことはかわらない』と、わたしは信じています」との思いがこもったエッセイだ。『わが友の旅立ちの日に』(山川出版社、1680円)。

   いろいろな本の話が出てくる。『即興詩人』(アンデルセン作、森鴎外訳)、『走れメロス』(太宰治)、『ヴェニスの商人』(シェークスピア)、『方法序説』(デカルト)……。登場するのは名作の数々だが、筆者が時折、「僭越にも、やや問題がある」などと考える部分について、「ツッコミ」を入れていく箇所もある。

映画や恋愛、友人、科学のことも

『わが友の旅立ちの日に』
『わが友の旅立ちの日に』

   例えば、童話の『泣いた赤おに』(浜田広介)についてはこんな感じだ。話は一種の美談で、読んだり思い出したりして涙ぐむ人もいる作品だが、青おにがわざと人間相手に暴れ、赤おにからわざと「退治」される展開は、「ふつうにいう『やらせ』だと考えるとよくわかります」。

   もっとも、作品自体を問題視しているわけではなく、これが「教科書に載る」ことに反対している。友達とはこうあるべきだ、という考えを押し付ける形で教えることになっては「まずい」と考えているからだ。

   今回紹介したのは「ツッコミ」の箇所だが、全体を通してみると、あくまで優しい語り口で、悲しみを奥深く込めながら話を展開している。話題は、本だけでなく映画や恋愛、友人、それに科学と縦横無尽の広がりをみせる。次々と「横道」にそれていくようでいて、しっかりと一本道でつながっている。

   以前、著者に孫ができたときに、孫たちに読んでもらおうと書いた『ZEROより愛をこめて』(1989年)をもとに、「残すべき所は残し、たくさんのことを書き加え」「すべて新しく書き直し」たのが今回の本だ。

   著者の未公開の絵も多く載っている。2012年10月5日、発売された。著者は、国際アンデルセン賞や菊池寛賞などさまざまな賞を受けている。『口語訳 即興詩人』(山川出版社、2010年)で鴎外訳作品を口語訳したことでも知られる。

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