【書評ウォッチ】難産から見えてくるものとは 人類学的お産のあり方

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   お産が女性の大事業だとは、男性でも知っているか、知っているつもりではある。実は哺乳類の中でも人間の難産が際立っていることを解説した『ヒトはなぜ難産なのか』(奈良貴史著、岩波科学ライブラリー)を、天文学の海部宣男さんが毎日新聞で。ヒトが進化の競争にうち勝った理由をはじめ「何やら、いろいろなことが一度に見えてくるような気がしてきた」と評価は高い。【2012年10月7日(日)の各紙からI】

赤ちゃんの「努力」と女性のがまん

 『ヒトはなぜ難産なのか』(奈良貴史著、岩波科学ライブラリー)
『ヒトはなぜ難産なのか』(奈良貴史著、岩波科学ライブラリー)

   まずヒトの大きな頭について、評者はわかりやすく語る。何枚もの頭骨が複雑な縫合線で付着して脳をしっかり守っているが、生まれて間もない赤ちゃんは柔らかい「ふにゃふにゃの頭」だ。それが生後一年で三倍になり、二歳でようやく固まるという。こんなに頼りない頭で生まれるのがヒトの一大特徴。新生児は生まれるとき、頭の直径を三分の二近くに縮め、身体の位置や方向を何度も変えながら、やっと出てくるのだそうだ。

   難産は、直立歩行とも関係する。直立すると骨や内臓の配置を複雑にできる一方で、お産には不向き。直立の猿人や原人も、難産だったかも。ネアンデルタール人の研究者でもある著者は、彼らは難産でもやや有利だった現代人に負けたのかもしれないと想像する。

   とすると、赤ちゃんの生まれ出るときの「努力」と女性のがまんのおかげで、ヒトは今日あるわけだ。「ヒトは、文明を持てる知能を、子孫を残せるギリギリのところで獲得したのだろうか?」と評者。人類学からお産を考えた一冊だ。

帝王切開や無痛分娩は「必要な場合に限る」

   とにかく昔からお産は大変だった。女性にとって産むことは命がけで、平安時代の『栄華物語』には四人に一人弱がお産で死んだ記録があるという。

   人間だからこそ世界中でお産を本人任せにしないで助ける仕組みが多様に発展したことを、本は紹介する。現代でも大事業であること自体は変わらない。同時に、本が指摘するのは、女性が「産む人」から「産まされる人」になった面だ。アメリカなどの不必要な帝王切開や、フランスで著しい無痛分娩の弊害。「必要な場合に限る」ことを著者は強調する。

   ほかには、良書と社会との関係を追究した『名作がくれた勇気』(藤井淑禎著、平凡社)が東京新聞に。敗戦から高度成長へ、『武器よさらば』『女の一生』『復活』『狭き門』『宮本武蔵』『風と共に去りぬ』などから新時代へと踏み出すトレンドをさぐった。

   「読書不振のいま、良書名作ブームだった時代の再生を」と、評者の塩澤実信さん。日本人が生き残れるかをまじめに問うたという読み方の「切実さ」に思いをはせている。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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