【書評ウォッチ】年2000億回収する「普通のOL」 カード社会の闇にも鋭く

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   仕事について語る本。数ある中で『督促OL 修行日記』(榎本まみ著、文芸春秋)がおもしろい。クレジットカードなどで使ったお金を払わない顧客に催促の電話をかける20代OLの体験談はすさまじいが、今の日本で決して珍しくない範囲の話。お仕事奮戦記を超えて世相の一端を切り取った力感が、読売の筆者紹介欄「著者来店」から伝わってくる。【2012年9月30日(日)の各紙からI】

その対処とストレス解消法は?

『督促OL 修行日記』(榎本まみ著、文芸春秋)
『督促OL 修行日記』(榎本まみ著、文芸春秋)

   「今度電話したらぶっ殺す」「うるせぇんだよ馬鹿野郎」など、顔も知らない相手から物騒な罵声を浴びせられるのがその仕事。コールセンターのOLがやがてコミュニケーション技術を身につけ、ストレスも乗り越えていく。

   もとは文学部で「本ばかり読んでいた」人見知り女子大生。就職氷河期にやっと入った会社で督促担当に回された。電話で罵声を浴びせられる毎日。ストレスで体重10キロ減、高熱、肌荒れに悩んだ。洗濯する余裕もなく、使い捨ての紙パンツで生活したこともあったという。同僚は心や体を壊して辞めていき、自分もネットの転職サイトばかり見る時期も。それでも辞めなかったのは「お金を返してもらえないのも、仕事に負ける自分も悔しくなってきたから」だそうだ。

   心理学などの本を読みあさり、仕事ができる先輩の技を観察した。見つけ出した答えが「とにかく数をこなす」「ゆっくり話す」という一見当たり前のこと。「声だけ美人になる」というのもあった。「言われた悪口を数え、一定数たまったらプチぜいたくする」ストレス解消法も思いついた。

「どんな仕事でも活用できそうだ」

   おかげで年間2000億円を回収するまでに。回収額が半年間トップを維持したこともある。それでも、すご腕OLもののイメージには遠い。普通の女性の成長記であり、仕事への適応記録でもある。よく耐えてつかみとった対処法は、「どんな仕事でも活用できそうだ」と記事は評価している。

   「お客様の信用を守る仕事」と、今では誇りと愛着が。「知ってもらうことで同じような仕事の人がどなられなくなってほしい」と取材に答えるあたりは、前向きで教訓的。人物重点の紹介記事という点を差し引いても、思わず声援したくなる。仕事体験・実情本にとどまらず、カード社会、クレジット取引の狭間に巣くう闇が見え隠れする。現代日本の仕事と人間模様からギュッと絞りだされた一冊だ。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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