中国反日デモの爆発的な荒れようは、全員が一つの方向に突っ走る集団の恐ろしさを垣間見せた。『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』(レン・フィッシャー著、白揚社)を、集団の原理とその正邪を語る本として脳研究者の池谷裕二さんが読売新聞で紹介している。鈍感と敏感というキーワードが集団の特徴を言い当てる。たまたまだろうが、国際情勢とかさなって説得力のある一冊だ。【2012年9月23日(日)の各紙からII】
昆虫の行動パターンと差異はない
動物でもヒトでも「群れは単純な原理で生まれる」と、書評はいう。前半はミツバチやアリなど、後半はヒトについて、本は論じる。人は自分を「高度な知能を誇る生物」と希望的に考えるが、実は、昆虫の行動パターンと差異はないそうだ。人も無意識に自然の摂理に従っている。
「ときに集団は鈍感化する」ことを、評者は火災報知機が鳴っても逃げない経験を例にあげる。「敏感になりすぎ、群衆パニックに至ることもある」との評が生々しい。
メールやネットの影響にも言及する評者が「新たな世論を生み、政治や民意をも動かす」例にしたのは、反日デモ。「個人対個人ではいい奴でも、集団になると別次元の意志に豹変する」とのとらえ方だ。群集力学。要するに、バカが群れると危険ということか。その要素が誰にもあるとすれば、この際、自らもふくめてしっかり認識しておかなければ。
やり切れない「他集団への敵意」
人は人をなぜ殺すか。『暴力はどこからきたか』(山極寿一著、NHKブックス)が同じ読売でも読書面の隣「学ぼう」欄に。「集団が結束するがゆえに、他集団への敵意が生まれやすい」と、やり切れなさを感じながら読んだという記者らしい署名の評にある。
著者はゴリラ研究の第一人者。「同じ種の仲間同士が大量に殺し合う」不可解な行動を解き明かそうとしている。
ほかでは、東京新聞の『原発と原爆』(有馬哲夫著、文春新書)がおもしろい。保守政治家が固執してきた「潜在的核武装論」と原発との関係を掘り起こした。
独自に発掘したという資料から、1950年代半ばにすでに米政府が原発と核武装をセットで考えていたことを指摘。正力松太郎が米国よりプルトニウムの扱いに融通がきく英国に触手を伸ばしたことや岸信介の核武装合憲論に触れる内容だ。「幻想を歴史的事実へと転換する秀作」と、ノンフィクション作家の山岡淳一郎さんが評価している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)