やり切れない「他集団への敵意」
人は人をなぜ殺すか。『暴力はどこからきたか』(山極寿一著、NHKブックス)が同じ読売でも読書面の隣「学ぼう」欄に。「集団が結束するがゆえに、他集団への敵意が生まれやすい」と、やり切れなさを感じながら読んだという記者らしい署名の評にある。
著者はゴリラ研究の第一人者。「同じ種の仲間同士が大量に殺し合う」不可解な行動を解き明かそうとしている。
ほかでは、東京新聞の『原発と原爆』(有馬哲夫著、文春新書)がおもしろい。保守政治家が固執してきた「潜在的核武装論」と原発との関係を掘り起こした。
独自に発掘したという資料から、1950年代半ばにすでに米政府が原発と核武装をセットで考えていたことを指摘。正力松太郎が米国よりプルトニウムの扱いに融通がきく英国に触手を伸ばしたことや岸信介の核武装合憲論に触れる内容だ。「幻想を歴史的事実へと転換する秀作」と、ノンフィクション作家の山岡淳一郎さんが評価している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)