「日本企業襲われる」「中国デモ 50都市に拡大」(朝日)「工場放火、店舗略奪」(読売)……反日感情の異常なまでの暴発ぶりを伝える大見出しが各紙一面にあふれた日の読書欄。国交回復40年の節目をとらえた朝日新聞が「中国とどう向き合うべきか」をトップ記事に掲げた。あげられた何冊かは国交回復やその前後が中心の内容で、評者の日本外交史・服部龍二さんのセレクト。荒れる一方の現状打開策には遠いが、この大テーマを考えるための資料としては示唆に富む労作ぞろいだ。【2012年9月16日(日)の各紙からI】
「不同意の同意」に到達したことも
田中角栄首相が訪中して周恩来首相らの出迎えを受け、人々の歓迎に手を上げてこたえたのは1972年9月25日だ。あれから両国間には実にいろいろなことがあった。『日中関係』(毛里和子著、岩波新書)は、2005年の反日デモから「日中関係は新段階に入った」ととらえる。「関係の理性化」を強調し、「とにもかくにも、リーダーが定期的に接触する」「政府レベルの共同事業を進める」など6点を提案する。
『日中国交正常化の政治史』(井上正也著、名古屋大学出版会)は、サンフランシスコ講和条約、日華平和条約の締結から72年の国交正常化までを描いた労作として服部さんは評価。大きな争点だった台湾について、日中交渉では「不同意の同意」に到達したという。一致できない立場を互いに認めあったとすれば、大人の知恵というものか。では、今回の尖閣問題ではどうするべきか、書評は直接には触れていない。
アジア型の外交的知恵はいま通用するか
これに関連するのが『「二つの中国」と日本方式』(平川幸子著、勁草書房)だ。中国を承認しつつ台湾と実質的関係を維持する方式。「アジア型の外交的知恵による柔らかな秩序構築の方法であった」と紹介にある。いま通用するだろうか。
「日中関係が安定するには、太い人脈が相互に不可欠」「パイプの細い民主党政権における尖閣沖漁船衝突事件での狼狽ぶりが想起されよう」と評者。『古井喜実と中国』(鹿雪瑩著、思文閣出版)は、日中友好にかけた政治家の足跡。中国にも人はいた。『中日友好随想録』(孫平化著、日本経済新聞出版社)は、中日友好協会会長の広範な活動記録。太平洋での勢力争いを「破滅への道」と説いたのは『キッシンジャー回想録 中国』(岩波書店)だ。
歴史家は過去を語り、今後への示唆にしようとするが、現状への具体策には慎重あるいは臆病だ。この書評もそこまで。あの国とのつき合い方、メリットとデメリット、それに「反日」爆発のリスクを今こそ、さまざまな角度から考えなければならない。
(ジャーナリスト 高橋俊一)