「日本人の誇り」胸に世界と闘った男 「石油」めぐる迫力のノンフィクション・ノベル

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   東日本大震災による原発事故に端を発し、日本はエネルギー政策の転換点に立っている。いまなおエネルギー資源の主流は「石油」だが、日本がその恩恵を安定的に享受できるようになった背景には、ある日本人の屈強な精神とその「息子たち」の多大なる努力があった――

   2012年7月に刊行された、百田尚樹著『海賊とよばれた男』(講談社、上下各1680円)では、実在の人物をモデルとした「国岡鐵造」を主人公に、彼が興した「国岡商店」と石油にまつわる奇跡のような英雄たちの物語を描いている。

社員は家族、労働組合は不要、出勤簿は不要…

『海賊とよばれた男』
『海賊とよばれた男』

   社員は家族、非上場、出勤簿は不要、定年制度は不要、労働組合は不要――こんな5大社是を掲げられたら、今では違和感を抱く人も少なくないかもしれないが、この「大家族主義」こそが、数々の困難を打ち破ってきた「国岡商店」の強さだ。

   敗戦で何もかもを失い、大手石油会社から排斥され、石油屋なのに売る油がない。しかし齢60歳の国岡は「愚痴をやめよ」「日本は必ずや再び立ち上がる。世界は再び驚倒するであろう」と断言し、社員ひとりたりとも馘首(解雇)しようとしなかった。

   国岡が呼ぶところの「息子たち」こと国岡商店の社員らは、当時のエリートだ。そんな彼らが糊口をしのぐため、漁業や旧海軍の残油処理等への従事も辞さず、たくましく会社を再生させてゆく。ハイライトは、昭和史にも名高い「日章丸事件」のくだりだ。石油国有化を宣言したことで、英国との間で緊張状態にあるイランのペルシャ湾へ、大型タンカーを向かわせる。

   彼らは、GHQや石油販売の自由化を拒む国内の利権団体をはじめ、イランのモサデグ首相、さらには世界を牛耳る石油メジャーといった巨大な圧力を相手に、物怖じせず交渉をとりまとめる。こうした動きは、奇跡や運の良さという言葉で片づけられることではなく、国岡の説く「人間尊重」の哲学を誠心に貫いた姿勢の賜物だろう。

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