【2012年7月22日(日)の各紙から】目覚めつつある「アジアの臥龍」といえば、今や中国ではなくてインドネシアだろう。新興国が大きな影響力を持つ世界で、面積日本の約5倍、人口2億3800万人(2010年推計)の国を、日経が読書欄のトップ記事で扱った。危なっかしい独裁政治や通貨危機、自然災害といったイメージがつきものだった国の最新動向。『経済大国インドネシア 21世紀の成長条件』(佐藤百合著、中公新書)や関連本から「安定と成長」へ向かう現状を解き明かす。このとおりなら、なるほどすごい。
政治の安定から好調な経済が
インドネシアでは1997年のアジア通貨危機を引き金に、98年にはスハルト大統領の長期独裁政権が崩壊。政治は不安定になり、連続自爆テロと大地震や津波による混乱が数年間続いた。この状況を一変させた要因の一つとして、著者・佐藤百合さんは優秀な経済官僚の活躍をあげている。
新興国はたいてい、民間資本の蓄積が不十分でマーケットも未成熟。政府のリーダーシップが、それだけ重要になるという。評者はSMBC日興証券の川端隆史さん。「インドネシアがかつての不安定な状況に逆戻りする可能性は、大幅に低下した」と、政治システムの安定から好調な経済が生まれたと受けとめている。
あまりにバラ色、「問題意識」はないのか
『2009年インドネシアの選挙』(本名純、川村晃一編、アジア経済研究所)は、地味な選挙も「日常政治のルーティーンになることは、民主主義の真価と定着に他ならない」と分析する。人々の心情を知るアプローチにと評者がすすめるのが『インドネシア検定』(加納啓良監修、めこん)。インドネシア文化や言語などそれぞれの専門家がわかりやすく解説していて、読者は「ひとかどの通」になれるという。
たしかに、アジアの将来や日本の経済にとって、インドネシアの存在感は増している。その記事を読んでうなずきつつも、ふっと思ったことが二つある。
書評の内容があまりにバラ色だ。インドネシア礼賛の高らかなファンファーレが鳴りっぱなし。証券会社がお客に投資をすすめる営業トークみたいだ。どの国にも良い面とともに改善すべき問題もあることを知ってこそ、理解は深まる。読者にはその点を冷静に見きわめながら読んでいただきたい。こんなに良いことばかりの国が、今の世界にあるのか。
もう一つは、書き方。長文なのに段落は四つしかなく、うち三つが30数行にもわたる。いろいろと詰め込みたかったのだろうが、評者は文章の基本を勉強したほうがいい。
(ジャーナリスト 高橋俊一)