現代に通じる悲哀と気概 「フォークソングの父」ウディ・ガスリー

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『Dust Bowl Ballads/ダスト・ボウル・バラッズ』
『Dust Bowl Ballads/ダスト・ボウル・バラッズ』

ウディ・ガスリー
『Dust Bowl Ballads/ダスト・ボウル・バラッズ』
SICP-3544
2012年7月4日発売
1890円
ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル


   1977年の夏、『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』(監督:ハル・アシュビー)という映画が日本で公開された。60年代のフォークブームの洗礼を受けていた筆者は、そそくさと映画館に足を運んだものだ。

   ウディ・ガスリー(1912/7/14- 1967/10/3)は、1930~40年代にかけて、当時の貧しいアメリカ労働者階級の苦悩、悲しみ、嘆き、そして気概を、ラジオというメディアを通してストレートに歌い上げ、プロテスト・フォークの第一人者として、後のボブ・ディランやジョーン・バエズらの支えた60年代アメリカン・フォークの時代に最大にリスペクトされたシンガー・ソングライターだ。「フォークソングの父」とまで言われる。

生誕100年を記念

   生年を見れば分かるとおり、今年が生誕100年である。60年代の日本のキャンパスフォークの時代にあっても、ピート・シーガーなどと共にリスペクトされていたが、その強い左翼思想は、60年代後半の反戦フォークを担った日本のシンガー・ソングライター達にも、大きな影響を与えた。

   映画はウディの自伝「Bound for Glory」を原作としたもので、ウディ役はテレビ版『シェーン』(後にカンフー映画でも一世を風靡したが)のデビッド・キャラダインが演じ、音楽映画的側面もありながらロードムービーとしても非常に優れた作品だった。

   そのウディ・ガスリーが残した幾つもの曲のうち、とりわけ、1940年の4月26日と5月3日にRCAビクターのスタジオで録音され、彼の残した最も偉大な録音のひとつと数えられる作品をまとめた貴重なアルバムがこれ。

   タイトルの「ダスト・ボウル」は、1930年代のアメリカ中部の農場地帯を襲った黒い土を巻き上げた嵐のこと。過剰生産による土地の劣化から起こった、人災にも等しい災害だった。そうした劣悪な環境の中で生きることを余儀なくされた農民を初めとする労働者の思いを歌い続けたのがウディであり、このアルバムも含め彼の作品は「歴史的ドキュメント」と呼ばれるほど、価値あるものである。

   生誕100年記念の発売ではあるが、なにか現代の労働者の悲哀にもリンクするウディの歌だ。「バラッド」ではあるが、カントリー・ブルースの要素も色濃く、聴き応えがある。

   ウディの晩年は、難病のハンチントン病との闘いだった。

   ウディの息子であるアーロ・ガスリーも、シンガー・ソングライターとして60年代後半にデビューし『アリスのレストラン』等の傑作を残している。

加藤普


【ダスト・ボウル・バラッズ 収録曲】
1. 恐るべき砂嵐
2. トーキング・ダスト・ボウル・ブルース
3. 美丈夫フロイド
4. ダスティー・オールド・ダスト
5. 砂嵐のブルース
6. 砂道を下りて
7. トム・ジョードの歌
8. 続トム・ジョードの歌
9. ド・レ・ミ
10. 避難民
11. 住む家とてなく
12. 番人
13. 砂嵐にたえて
14. ダスト・ニューモニア・ブルース
15. トーキング・ダスト・ボウル・ブルース (Alternate Version)

◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70~80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。

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