【書評ウォッチ】カネで何が買えるのか 市場主義の経済学って?

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【2012年7月1日(日)の各紙から】カネさえあれば何でも買えるか、解決するか。人間社会には永遠のテーマかもしれない。「市場主義」をテーマにした本を読売と日経がそれぞれとり上げた。もっとも、経済や市場に向き合う角度はだいぶ違っていて、2冊の話はかみ合いそうもない。そのギャップに金銭経済をめぐる人のありよう・考え方の、やるせないまでの相違が現れてしまうのだ。視点が変われば書き方や言葉遣いから、論じる範囲までが、おもしろいぐらいガラリと変わる。

何でも経済で仕切られてしまう傾向が蔓延

『それをお金で買いますか』
『それをお金で買いますか』

   現代の経済学が守備範囲を広げていることは確かだ。統計に表れる経済現象だけではなく、結婚とか犯罪とか人間行動全般を論じ始めている。それだけ、何ごとも経済で仕切られてしまう傾向が蔓延してきたということかもしれない。そこをついた問題提起が、「白熱教室」で知られる倫理学者、マイケル・サンデルの『それをお金で買いますか』(早川書房)だ。経済学と市場主義に「喝!」を与えたと、慶応大学の中島隆信さんが読売で評している。

   「市場取引にふさわしくないものが経済的効率性の名のもとにカネでやりとりされている」とサンデルは指摘する。たとえば、あるテーマパークでは追加料金を払えば待ち行列の先頭に割りこめる。贈り物を現金にする。規範や友情は、これでいいのか。「生命保険の自由市場」は「命で賭けをすること」ではないか。サンデルの主張は実に明快だ。

   こうした事例は説得力があるとしながら、評者は経済学者として「確かに市場取引は品位を下げるかもしれないが、その代わりオープンな市場での規律が働き一定レベルの品質が保証される」という。この反論自体は一理あるが、カネで行列の先頭を買うことと一定の品質保証をどう関係づけるのか。マナーや社会観の分野を経済で論じても説得力はない。

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