【書評ウォッチ】多作多才の井上ひさし すごい生涯と優しいまなざし

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【2012年6月24日(日)の各紙から】ストリップ劇場のコント作家、テレビ創成期の放送作家、豊かな言葉で世のあり方を考えた小説家・劇作家と、多作多才の人だった故井上ひさし。その生涯をたどった『ひさし伝』(新潮社)が2紙に。著者の笹沢信氏は井上が生まれた山形の新聞で文化欄を担当した元記者。全作品を丹念に読みこみ、深みのある評伝を仕上げた。少年時代からの生きざまと優しいまなざしが浮かび上がる。

「喜劇の精神を大事に。否定よりは肯定の人」

『ひさし伝』
『ひさし伝』

   井上ひさしは、父が農地解放運動などで何度も検挙されるうちに亡くなり、母と東北各地を流浪、やがて児童養護施設に。行く先々で言葉の違いに悩まされたことが日本語への強い関心を生む。それはのちにユートピア小説『吉里吉里人』に結実する。

   「どんな信念と努力とその間に反骨精神があったのかがわかると、井上作品に再び触れたいと感じる」と、作家のいとうせいこうさんが朝日で。

   評論家の川本三郎さんは悲劇がしばしば死を称賛するのに対し、喜劇は生を称賛することをあげて「喜劇の精神を大事にし続けていた。否定よりは肯定の人だった」と高い評価を毎日読書欄に書いている。まさに「泣くのはいやだ。笑っちゃおう」(ひょっこりひょうたん島の歌詞)と。

   たとえば、井上は少年時代にカトリックの施設に入ったが、宗教そのものより無私の奉仕をつづける師父たちの姿に感動した。『モッキンポット師』ものは、この敬意から生まれたという。

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