宣伝の仕事は六、七割が雑用とか
同じ毎日の別ページには40年以上、ハリウッド映画にかかわってきた名宣伝マン・古澤利夫氏の『明日に向って撃て!』(文春文庫)が。書名は手がけた映画からとった。ほかにも「スター・ウォーズ」や「タイタニック」などヒット作の陰には必ずいるといわれる人だ。本には、映画評論家も顔負けの知識があふれている。
ただし宣伝の仕事は六、七割が雑用というのも、実状を語っていて面白い。試写状の宛名書き、プレス用資料作り、来日するスターの接待までだ。評者名は「川」一文字だけ。
山根氏はVFXやCGの導入で「ショット」なしの制作に、古澤氏はハリウッドの大作主義やマーケティング偏重に、それぞれに「警鐘」を鳴らし、問題提起をおこたらない。このへんは、評者にもっと解説してほしいところ。評にも問題意識が必要だ。
音楽の方は、先ごろ亡くなった吉田秀和氏の業績を片山杜秀・慶応大准教授が朝日で。
昭和初期にリサイタルでバッハとシューマンを並べて聴き、直観的に核心をつかんだという有名なエピソードから始まる初評論集『主題と変奏』(中公文庫)を紹介。そのひらめきが本当かどうか、今度は職人のようにコツコツと譜例を丹念に使って確かめていく。オペラや交響曲だけでなく、暮らしの中でくちずさめる歌曲について書いた『永遠の故郷』(集英社)4部作は吉田氏の総決算にふさわしい充実ぶりだという。
(ジャーナリスト 高橋俊一)