大型戦闘ロボットに乗りこむ小さな人間
では、「会社員小説」とは何か。
会社に属すると同時に私人でもある人間が主人公。現代人の圧倒的多数であるはずの人たちを会社・仕事と家庭・私生活の両面からとらえる文学といったあたりだ。本はこの両面の対立や緊張関係を核に描くのが現代的な会社員小説という見方をしている。
そこから庄野潤三や黒井千次、あまりとり上げられたことのない坂上弘、絲山秋子、長嶋有らを論じる。「会社員はガンダムだ」とたとえて、大型戦闘ロボットに乗りこむ小さな人間を浮かび上がらせもする。
確かにありそうでいて、目立たない「会社員小説」。身近すぎて文学になじまなかった会社員という存在を、いまこそ見つめていい。文学がありきたりの日常からかけ離れた非日常世界を主に相手にしてきたためか、軽視されていたことは間違いない。
その意味で、この本は文学とそれをとりまく業界プロたちへの的確な批判でもある。まあ、そうかたいことを言わなくても、自分や自分の周囲を見つめながら、現代の会社と会社員について考えるにはピタリの一冊だろう。
(ジャーナリスト 高橋俊一)