北京でここ数年、スターバックスが急増している。昨年10月に北京で500店舗に達し、2015年までに3倍にする計画だという。西洋人が多い地区だけでなく、中国の中産階級が住むごく普通の地区でも見かける。
そこで、納得いかないのが、スタバの値段である。1杯30元もする(ラテまたはカプチーノのグランデ。日本円で約420円)。さらに納得いかないのが、この高いスタバが、流行っているのである。
飲むのは「ステータス」
数年前、中国人大学生に聞いたとき、マクドナルドのバイトの時給は4.5元、ピザハットで8元ぐらいといっていた。日本語科の学生さんがたいへん流暢な日本語で「(飲食店の定員の時給は)2桁になることはありません」と教えてくれた。
今回スタバで働く人の時給をネットで調べてみたところ、はっきりした数字はわからなかったが、どうも7~9元程度らしい。昨今の北京の物価上昇に伴い時給も上がっているとして、仮に時給10元だとしても、3時間働いてやっとスタバのコーヒー1杯分である。
大学卒の初任給が2000~3000元、北京市の平均世帯収入が月4000元程度である。日本の価格基準に変換すると、スタバのコーヒーは1杯3000円ぐらいの感覚だ。日本でさえスタバの値段を見て高いと思って我慢してしまう筆者としては、なぜこんなに高額な中国のスタバがいつも流行っているのかがなぞである。
不思議に思っていたら、ChinaDaily誌の記事で先日こう分析していた――人々がスタバに求めるのはコーヒーではなく、ステータスなのだという。中国人が憧れる西洋的生活、先進国の生活の象徴がスタバなのだという。コーヒー1杯に3000円払うのでなく、「スタバでコーヒーを飲んでいる自分って何だかかっこいい」と感じることにお金を払っているのだ。
値段高めのハンバーガー屋も人気
確かに中国の人は欧米諸国や日本のブランドが好きである。日本から北京への飛行機の乗客は、日本製の炊飯器を持ち帰る人を多くみかける。もちろん北京でも炊飯器は売っているのだが「日本製」なのが大事らしい。iPhoneや iPadは中国国内では米国よりも価格が高いにも関わらず、新型の発売日には長蛇の列ができる。
同等の機能をもつ中国製のスマートフォンやタブレットコンピューターではステータスにならない。アップル純正品でないと、権威がないらしい。そういうわけで、昨年のように、iPad欲しさに腎臓を闇ブローカーに2万元で売ってしまった少年の事件などが発生することになる。
スタバも高いと思うのだが、もう1つ、なぜ流行るのかが不思議なのは、米国から進出してきたファストフード、Fatburgerというハンバーガー屋である。ここでは普通のバーガーがなんと単品で1個40元だ(ポテトはついてません。ドリンクも)。マクドナルドのダブルチーズバーガーがセット(フライドポテト、ドリンク付)で16元というのに比べると、馬鹿高い。
かつてマクドナルドが中国進出したとき、当時の中国人には高くて手が出ない値段であったそうで、「4人で1個のマックのバーガーを分けて食べる中国人」というような新聞記事を見た覚えがある。そんな日はすでに遠い過去へと消え去った。マクドナルドは庶民にも簡単に手に入り、いつもたいへん混んでいる。もはや希少価値はない。
Fatburgerは、知人のアメリカ人に言わせると「肉の質が違う」のだそうだし、確かにマックよりはちょっとおいしいと思うが、3倍の値段の差ほど味が違うかどうかは疑問である。しかしこのバーガー屋も流行っているのである。この店にくる中国人客もやはり「ステータス」を食べにくるのだろうか。
小林真理子