雪男、毒人間、アイドル国王―ブータンは「幸せ」というより「SF」だ

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   集英社は2012年3月26日、『未来国家ブータン』(高野秀行・著、272ページ、定価1575円)を発売した。

   「幸せの国」ブータンを描いたルポタージュで、「辺境」の旅を題材とした作品で知られる作家・高野秀行さんが、呪術的な世界と進んだ文化政策が両立する「まるでSFのような国」の素顔を紹介する。

国王はスーパーアイドル

未来国家ブータン
未来国家ブータン

   ブータンといえば抽象的な「幸せな国」「美しい国」というイメージばかりが先行しているが、高野さんは「チュレイ」と呼ばれる物の怪、そして「毒人間」「首切り人」といった謎の一族の存在がささやかれ、土俗的な祈祷や占いが広く信じられるという意外にもおどろおどろしい側面を目撃する。さらに標高3000メートルの村には、「雪男」まで現れるというのだ。

   かと思えば公用語は英語で、また生物多様性や文化の維持に努めるなど、その政策はかなり先進的だ。おかげで今やブータンは、「世界最高の環境立国」とまで言われている。

   また高野さんは、人々がいかに国王を愛しているかを、驚き交じりに記す。

「この国では国王は『尊敬の対象』どころではない。日本で言うならジャニーズ事務所所属の全タレントと高倉健とイチローと村上春樹を合わせたくらいのスーパーアイドルである」

   一筋縄ではいかないブータンの魅力を、縦横に伝えた一冊だ。

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