Very Unhealthyでも喜んでしまう心理
大気質指数が500の最高値を超えBeyond Indexとなった日(2012.1.10)のBeijing Air画面(上)とこの日の国貿三期ビル(下)。PM2.5の次の数値が濃度(ナノグラム/m3)、次が大気質指数。
Beijing Airでは、PM2.5の濃度と大気質指数(Air Quality Index、 AQI)が表示される。大気質指数は0-500で、500が最悪であり、指数50以下が「良」とされる。論争となったのは、Beijing Airで大気質指数が301以上の「重汚染(Hazardous)」なのに、北京当局のPM10観測値では「良(Good)」だったり「軽微汚染(Unhealthy for Sensitive Groups)」だったりするという不一致がみられた点だ。大気の観測地点は道路のような排気ガスの多いところから50メートル離れた地点で測定すべきだが、米国大使館の測定地点は15メートルしか離れていないので、より数値が高くなる、という北京当局による反論(弁解)が新聞に載ったりもしたが、「今日の空気はどうみても不健康」と明らかに五感で感じられる日に「良(Good)」と表示されていては、納得がいかないのもうなずける。そういう風潮を受けてか、中国政府も今年1月末から試験的に2.5PMの測定値をウェブで公開するようになった。しかしながら、測定地点が違うので公正な比較はできないが、どうも米国大使館の数値よりいつも低めであるようにみえる。
大気汚染があっても、外出を控える、マスクをする程度の自衛策しかできないのも事実。毎朝、米国大使館のBeijing Airをチェックしていた友人曰く、常に軽度汚染(Unhealthy)か中度汚染(Very Unhealthy)、ときどき重汚染(Hazardous)と表示され、「憂鬱になるので見るのをやめた」と言い捨てていた。欧米人は以前から、Beijing Airをモニターし、汚染がひどい日には外出しないなどの自衛策を講じていたようで、インターナショナルスクールも、汚染のひどい日には屋外活動を停止するなどの対策を講じていたが、日本人コミュニティは対応が遅れていた。しかし、昨年末に日本大使館による説明会があり、日本人コミュニティでも「そこまでひどかったのか」という認識が高まり、日本人家庭がこぞって空気清浄機を買いに走り、清浄機が品薄状態になったとも聞く。
3カ月前の朝、窓を開けると石炭の燃える臭いが強く鼻をつき、大気は真っ白だった。Baijing Airでの大気質指数はずっと500で、その横に「Beyond Index」と表示されていた。指数の最大値500(重汚染/Hazardous)を超えてしまい、表示不能なのだ。Hazardousの場合、「すべての人は屋外活動を中止。心臓・肺疾患患者、高齢者及び子供は屋内に留まり、体力消耗を避けるべし」という警告がなされる。この日、昼12時には大気はVery Unhealthyにまで落ち、「ああ、きれいいになった」と思ってしまった自分が怖い。連日、ちょい汚染か、大汚染か、信じがたい汚染……の間をいったりきたり、というカテゴリーしかない環境に慣れてしまったのか……。
冬の石炭による暖房の季節が終わり、大気中の石炭臭はなくなったが、これから柳絮(ポプラ科樹木の綿毛状の種子)やら黄砂やらが飛ぶ季節となる。北京で安心して深呼吸できる日はいつになることだろうか。
小林真理子