【書評ウォッチ】タイムリーな桜と花見本の企画 ただし、紹介姿勢に問題も

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   【2012年4月8日(日)の各紙から】この季節、なんで花見が好きなのだろうと考えながらも桜に魅せられる人は多い。その意味ではタイムリーなトップ記事が朝日読書欄に載った。見出しは「桜と日本人 なぜ花見をするのか」。ソメイヨシノの普及事情を扱った『桜が創った「日本」』(佐藤俊樹著、岩波新書、798円)や古典的大作をとりあげた。ただし、素晴らしい企画とまではちょっと言えない問題もあって、書評欄のあり方を図らずも考えさせる、皮肉な内容だ。

花見文化の疑問にわかったような、わからないような紹介

   「開花宣言」や「桜前線」の言葉はいつから使われ出したのか、と評者の白幡洋三郎・国際日本文化センター教授が問いかける。それはソメイヨシノの出現以後。『桜が創った「日本」』は、幕末に生まれた園芸品種がいかに日本の春を覆っていったかを解き明かす。

   桜が咲けば、さあ花見だ。花の観賞は世界中で行われ、植物のサクラは北半球に広く分布しているが、大勢で飲み物・食べ物を持っていく花見の文化は日本だけという。評者長年の疑問だそうだ。『花と木の文化史』(中尾佐助著、岩波新書、735円)がこれに答える。西洋は「だいたい本能的美意識」で、日本は「学習による文化的美意識」が働くからと。これだけでは、わかったような、わからないような。解説がもう少しなければ、理解も関心も限られる。評者と編集者だけがうなずいても、読む人には通じない。

   この記事、以上2冊よりも字数をつくして『日本人とサクラ』(斎藤正二著作選集5、八坂書房)や『櫻史』(山田孝雄著、講談社学術文庫)も紹介している。しかし、一方は1万290円、一方は「品切れ」。普通の市民は手に入れにくい。国立国会図書館まで行って読めとでもいうのか。桜を扱った本は多数あり、より庶民向けの選択をできなかったか。研究者やその方面の権威者向けにはよくても、紹介姿勢がマニアックすぎる。これでは普通の人を読書欄から遠ざけてしまう。

「ブータン」も日本人の心をくすぐって

   ほかには、出版が続いた「ブータン本」についてコンパクトにまとめた日経「活字の海で」コーナーが面白い。昨年11月の国王夫妻来日から、人口70万人の小さな国に関心が集まっている。評者は文化部記者。

   田中敏江著『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』(小学館)、高野秀行著『未来国家ブータン』(集英社)、御手洗瑞子著『ブータン、これでいいのだ』(新潮社)など。

   桜とブータン。スケールや質はちがうが、どちらも日本人の心をくすぐる。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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