オリンパスの不透明な買収事件で昨年10月、当時の社長マイケル・ウッドフォード氏が解任された経緯は記憶に新しい。このほど事件の全貌を明らかにした『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(著・山口義正)が、講談社から2012年3月29日に緊急刊行された。
買収資金は「金融プロ」たちの手に?
経済ジャーナリストの著者は、知人の告白により、オリンパスが本業とは関係のない売上高が2億~3億円の会社を、300億円近くも出して買っている事実をつかんだ。なぜそんなにカネを流出させる必要があったのか? 追及記事が月刊誌「FACTA」2011年8月号に載り、ウッドフォード社長の目に留まった。ウッドフォード社長はこの不正を看過できず、菊川剛会長に質したが、その会談は決裂し、後に菊川会長はウッドフォード氏を解任したのである。
オリンパスの高額買収の理由は不明なままだったが、その後「FACTA」編集部にタレコミメールが届く。買収した会社の事業計画書に載っていた株主構成に、怪しいコンサルタント会社と並んで、租税回避地の英領ケイマン諸島籍のファンドがあったのだ。しかもそのファンドを運営するのは、金融界では「天才的なマネーロンダリングマン」として知られる人物が関係する会社。買収資金という名目で捻出した資金は、これら怪しげな金融プロたちの手に渡ったのではないか。そう著者は推理する。
事件の収束は不透明なまま…
事実、オリンパス経営陣と野村証券OBら7人が金融商品取引法違反の疑いで逮捕に至っている。しかしその後もオリンパスの上場は維持され、事件の収束は不透明なまま。これでは日本経済全体が粉飾決算を是認したようなものだと、著者はいう。タイトルの「サムライと愚か者」とは、不正を前に態度が二分される日本人を評して、ウッドフォード氏が著者に語ったことばだそうだ。
報道ではわからなかったオリンパスの損失隠しの全体像が、本書でははっきりと暴かれる。それだけでなく、重大な秘密を内部告発するオリンパス社員たちの心情も感動的だ。日本経済の暗部をも暴きかねない大テーマを追いかける著者の真摯な姿勢が、とても印象的な本である。