【2012年3月18日(日)の各紙から】
地震に対する備えと対策が、東日本大震災から1年、出版界の主要テーマの一つになっている。そうした中で、ずばりそのものの書名『きちんと逃げる。』(広瀬弘忠著、アスペクト)を東京新聞が「テーマを読み解く」コーナーでとり上げた。日経には放射能汚染地の実態を伝えようとした『ホットスポット』(NHK ETV取材班著、講談社)が紹介された。
想定を超えたときの安全確保とは
『きちんと逃げる。』は、各地の災害現場を調べてきた著者が被災者の心理にせまった。多くの被災者から聞いたのが「まさかそこまでひどい事態に」という言葉だ。人は「多少の異常事態が起こっても異常事態と認めない傾向がある」という。あえて外界に鈍感になることで、心の平静を保とうとする。しかし、その過小な「想定」のおかげで失われた命のなんと多かったことかと評者の中野不二男氏は指摘する。
自動車の安全装置が、たとえとして持ち出されている。TRCやABSなど、タイヤの空転やブレーキ・ロックによる事故を防ぐための「能動的安全システム」がある。それでも事故が発生した時に備えて、シートベルトやエアバックという「受動的安全システム」もある。災害の場合はどうか。「想定」を超えたときに安全をどう確保するか、その重要性を著者は強調し、評者も「同感」の意を強く打ち出している。
想定・想定外の線引きに警告
「想定の範囲内」というのは、株価捜査にかかわる事件でよく聞いたフレーズだ。「想定」とは何を意味するのかだろうかと問いかけて、評者の中野氏は『「想定外」の罠─大震災と原発』(柳田邦男著、文藝春秋)をすすめる。想定外という線引きをしてしまうと「想定以上のことが起こったときに、どう対応するかという準備まで放棄してしまう」という警告が核心の一冊だ。
『ホットスポット』は、NHKの特集番組「ネットワークでつくる放射能汚染地図」のディレクターや記者がまとめた。政府や大組織の指示や情報に基づくのではなく、研究者や個々人の協力を通じて汚染の実態を明らかにしていく。各地に広がった住民による汚染濃度の自主測定にも通じる一面を感じさせる。官製の想定とは一線を画した「地図」作りの必要を提起したところに、この調査と報道の意味がありそうだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)