おびただしい数の遺体と向き合って
東日本大震災で1万5000人を超える人々が亡くなった。しかし、新聞やテレビで繰り返し伝えられる震災映像や写真では決して目にすることが出来ないのが、犠牲となった人々の「遺体」だ。新潮社の『遺体―震災、津波の果てに―』(著・石井光太、1575円)は、おびただしい数の遺体と、その遺体に向き合った関係者の活動に焦点を当てた。
著者は震災直後に岩手県釜石市に入り、遺体安置所を取材する。市職員、消防団員、医療従事者、僧侶、葬儀関係者らが直面した未曾有の災害現場だ。そこで目にした身元確認から弔いまでの遺体を取り巻く現実の姿。これまで知られることの少なかった、こうした営みを経なければ、犠牲となった人たちの鎮魂はないし、復興もないのだ。そのことを強く伝える渾(こん)身のルポルタージュとなっている。