東日本大震災、そして福島第1原発の事故から間もなく1年が経つ。その間、原発をめぐっては国会で、街頭で、そしてネットでと数え切れないほどの議論が重ねられてきたが、いまだに答えは見える気配がない。
そんな中刊行された本書は、「原子力」そのものの歴史をさかのぼり、「フクシマ」という問題の根源を問うた一冊だ。
作家の池澤夏樹さんは、以下のような解説を寄せる。
「2011年3月11日に、福島第1原子力発電所で何が起こったのか、不明なことはまだまだ多いが、事故の実態はある程度まで明らかになってきた。~事故の過程ならば、地震と津波から数日間の話だ。しかし、事故の理由を問うのは、なぜ地震と津波でこれほど広大にして長期にわたる被害を出すような施設があそこにあったか、その点を問うことと同じである。そこには長い過去がある」
この問いに対し、本書は核の誕生――つまり、広島と長崎に落とされた原爆にまでさかのぼり、その歴史を詳細にたどる。一本の線として浮かびあがるのは、原子力の「平和利用」の名のもとに、利権をめぐる争いや隠蔽体質が生まれる過程だ。
放射能の影響について書かれた本、原発事故の経緯や責任を問う本は多々あるが、「なぜ原発があの場所にあったのか」を咀嚼しておかなければ、いかなる議論も不毛だろう。
エネルギー問題の今後を考えるためにも、日本人なら読んでおきたい。
著者のステファニー・クックさんは、30年以上原子力問題を追っているジャーナリスト。1977年にAP通信記者となり、1980年からニューヨークのマグローヒル社で『核燃料』『インサイドNRC』に記事を書く。1984年にロンドンに移って2年後、『ビジネスウィーク』『原子核工学週報』にチェルノブイリ事故のその後を報告した。2004年にアメリカに戻る。現在は『週刊原子力情報』の編集長を務めながら、メリーランド州ケンジントンで暮らす。今回は2009年に刊行し話題を読んだ原著に、日本版特別章として「3.11巨大地震の襲来」を加筆収録している。