怒りの源流と格差の理由 「何かがおかしい」の何かとは―書評ウォッチ

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【2012年3月4日(日)の各紙から】

   「ウォール街を占拠せよ」と昨年秋に発生した反格差社会デモは、占拠を意味するオキュパイ運動ともよばれる。多くの人々が景気低迷で苦しんでいるのに、企業経営者や金融関係者が法外な収入を得ている現状に爆発した怒り。その関連本を朝日と東京新聞がとり上げた。朝日は民衆史の観点から運動の源流を探り、東京は「では、格差拡大の理由は」と問いかける。

「我々は99%である」の直接行動

『民衆のアメリカ史』上巻
『民衆のアメリカ史』上巻

   それは決して突然始まったわけではないというのが、朝日の「ニュースの本棚」コーナーだ。評者の「現代思想」前編集長・池上善彦氏は『民衆のアメリカ史』(ハワード・ジン著、油井大三郎ほか訳、明石書店、上下各8400円)から、無数の民衆による多様な試みがあったからこその運動だと強調する。

   原著は1980年の出版だが、「99%の人々が共通性を自覚し始めるとき、直接行動による大きな変革が始まるであろう」と書いていた。オキュパイ運動がいま掲げる「我々は99%である」との一致を、誰もが思うはずだ。運動は全米2000カ所以上に広がっている。

   日本については、原発事故への怒りと生存ギリギリのところから発生したデモで徐々に変わりつつあると池上氏はいう。その地下水脈を扱う『明治精神史』(色川大吉著、岩波現代文庫、上巻1155円、下巻1260円)をあげ、放射能の自主計測運動にも触れている。

「税金は庶民が払う」という詐欺行為

『タックスヘイブンの闇』
『タックスヘイブンの闇』

   東京新聞は、『タックスヘイブンの闇』(ニコラス・シャクソン著、藤井清美訳、朝日新聞出版、2625円)を紹介した。格差の理由は経済危機の後遺症や富裕層の株売買益などではないことを、評者の足立倫行氏がわかりやすく語る。「史上最大の詐欺行為により、世界の富は盗まれている」実態と国境を越えた資金操作システムを、この本は告発する。

   それによると、問題はタックスヘイブン(租税回避地)を使った不正ビジネス。巨大な利益を上げながら、税金の極端に安いイギリス領ヴァージン諸島や税負担の軽いルクセンブルクに本社や財務部門を置き、納税を逃れる。刑法や相続税などからも解放される。富と権力を持つエリートたちは社会から便益のみを得、「税金は庶民が払う」のだという。

   「何かがおかしいと世界中の人々が感じてきた。その正体を始めて暴いた衝撃的な経済ノンフィクション」とは、やや持ち上げすぎだが、グローバル経済の実態を知るには有効でタイムリーな一書だろう。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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