企業からの広告費も縮小するなど、盛り上がりもやや一段落した感がある「フリーペーパー」だが、最近ではむしろ既存雑誌にはない切り口や、個人発の表現の場として注目が集まりつつあるようだ。
そんなフリーペーパーの中から、ユニークなものを紹介してみたい。
現役僧侶らが作る「フリーマガジン」
「フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン」は、珍しい「仏教」がテーマのフリーペーパーだ。浄土宗の現役僧侶である池口龍法さんらが「仏教を身近に」「仏教と出会うきっかけ作りに」と2009年8月から制作しているもので、関西を拠点に全国で毎号1万部を刊行している。
最新号は全12ページで、特集はダライ・ラマ法王の来日講演、ほかにも「坊主BAR」のレポート記事、修行生活をつづったエッセイが掲載されるなど、さすがは「僧侶たちのフリーマガジン」という内容だ。
「フリースタイル、という言葉には、既成概念にとらわれず大胆な形で新しい仏教を考えたいという意味を込めました。気軽に手にとってもらえるよう、表紙も面白みのあるものにし、寺院だけではなくカフェや居酒屋など街中のお店にも置いてもらっています」
と池口さんは話す。創刊から2年半、当初は超宗派での活動に懐疑的だった周囲からも「がんばっているね」と応援の声が増えているそうだ。
家紋ならぬ「パ紋」作ります
陣内智則さんの「映像ネタ」を手がけることでも知られるグラフィックデザイナー・映像作家の原田専門家さんがネット上で制作しているのが、家紋ならぬ「パ紋」。個人用の「パーソナルな家紋」というべきエンブレムだ。
Twitterを通じて個人から無料でリクエストを募っており、これまでに470個のパ紋をデザインしてきた。自ら刊行しているフリーペーパー「パ紋48」では、制作したパ紋の一部を紹介している。
制作の際には相手に「好きなもの」を数種類挙げてもらい、そこからの連想・組み合わせでオリジナルのパ紋を作る。たとえば「プロレスとスラムダンクと鉄男」「サルバトール・ダリとセロリ」「セレッソ大阪と清志郎とまんべくん」といった具合だ。「パ紋48」に並ぶそんなパ紋を見ていると、不思議と依頼人のパーソナルが見えてくるような気がしてくる。
原田さんはパ紋を、自分の好きなもの、個性を相手に伝えるきっかけとなる「コミュニケーションツール」だと話す。目標は世界人口と同じ、70億個のパ紋を作ることだといい、「まだまだ全然足りていない」。今後もパ紋作りを続け、また2か月に1回のペースでフリーペーパーとしてもまとめていくという。
猫写真がいっぱい
「ネコメンタリー」は、A4を四つ折りにした手のひらサイズのフリーペーパーだ。開くと、その中身は全て「猫」の写真。奥付を除いては一切のキャプションもなく、最新号(Vol.11)では8枚の猫たちの姿を収めている。
刊行者の松本光央さんは、元々趣味として猫の写真を撮りためていた。休日、カメラ片手に表参道や六本木、西新宿、新大久保、谷中などの団地・公園・路地裏といった場所を散歩しながら、猫の姿を探すという。
東京・渋谷のフリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER」を訪れたことをきっかけに自分の写真をフリーペーパーとして発表し始め、2011年2月の創刊以来現在まで12号を制作してきた。写真はもちろん、デザインや印刷データ作成、折り加工も全て自分で行う手作りの紙面で、「ONLY FREE PAPER」のほか、喫茶店やカメラ店などで毎号1000部を配布している。11月にはこのフリーペーパーがきっかけとなり写真展も催した。
松本さんはフリーペーパーの長所について、「タダなので不特定多数の人に気軽に手にしてもらえる」ことに加え、「作り手の思いがストレートに表現されているものが多いのも魅力だと思います」と話している。