被災地を「見た」人間の責任とは
外岡氏は震災の後、いったん被災地を取材したが、今起きていることを自分で定義できず、しばらく呆然とした日々を過ごしていた。そんなとき、作家の辺見庸氏がテレビの番組で、今回の震災に関連してカミュの「ペスト」について話しているということを聞いた。その瞬間、たしかに今この国で起きていることは「ペスト」の世界であり、そこでどう生きるかが1人ひとりに問われている。そんな思いに突き動かされ、かつて読んだ名作のいくつかを再読した。
「読み直すと、それらの作品は、過去ではなく今を考える、内省の羅針盤のような力をもっていた」
そして改めて被災地に足を運び、こう記す。
「見てしまった者は、見たことの重さを引き受け、その後も見届ける責任を負う。それが、何の力にもならないのを覚悟のうえで」
外岡氏は朝日新聞の米国や英国の特派員を経て編集局長も務め、2011年に退社して現在はフリーのジャーナリスト。学生時代に、石川啄木をテーマにした小説「北帰行」で文芸賞を受賞している。そんな元文学青年だからこそ書けた一冊かもしれない。