東日本大震災の発生から5か月――。地震の直接的な被害だけでなく、農産物の風評被害にも頭を悩ませる福島県は2011年8月中旬、県内の農産物や観光情報を積極的にアピールし、新生福島の姿を伝えていくプロジェクト「ふくしま 新発売。」を立ち上げた。
プロジェクトの一環で、地元の魅力を伝える「現地情報員」を福島在住者の中から募集し、佐藤裕基さん(26)ら4人を採用。彼らが県内の担当地域を駆け回って取材した内容を、webサイトを通じて定期的にレポートしていくという。J-CASTモノウォッチは2011年8月31日、会津若松市内の農産物特売所、レストラン、果樹園を巡る情報員たちの「初仕事」の現場に立ち合った。
「会津のいいところを自分の言葉で伝えたい」
果樹園「フルーツランドよよぜん」での取材の様子
情報員のひとりで、地元での起業を目指している佐藤さんは、会津地方の担当だ。震災後の4月に南相馬市でボランティアをした経験がきっかけで、情報員に応募したのだという。現場を見ているだけに「ただ悲しむだけでなく亡くなった人のために何かできないか」という思いがずっと頭から離れなかったそうで、「会津のいいところを自分の言葉で伝えたい」と表情を引き締めた。
最初に訪問したのは、農産物直売所「ファーマーズマーケットまんまーじゃ」。広さ498平方メートルの店内には、地元で取れた新鮮な野菜が所狭しと並ぶ。佐藤さんが、震災後に農家が困っていたことを尋ねると、古川正俊店長は「(基準値を超えた農産物が出たときは)廃棄処分で捨てなくてはならなかったのが心苦しかった」と唇をかんだ。
慣れない手つきながらも真剣なまなざしでメモを取り続けていた佐藤さん。「いま店内では、(放射性物質の)分析の結果、クリアしたものだけを自信をもって販売している」という話には、表情がちょっぴり和んだ。会津若松市は県内でも放射線量が低い地域で、野菜はできがいいと評判だ。ナス、トマト、キュウリはこれから旬を迎える。「安全だという認識を深めてもらい、新鮮な会津産の野菜をどんどん食べてほしい」と古川店長は話した。
今年の果物は出来がいい!
真剣なまなざしの佐藤裕基さん
果樹園の「フルーツランドよよぜん」代表の新田善治さんも「放射線量の問題は(今のところクリアしているから)心配ないが、これからブドウ、ナシなどがシーズンを迎えるのに団体客の予約は少ないね」と苦笑いだったが、佐藤さんが明るい話題を引き出した。朝と夜で温度差のあった今年の果物は「よくできている」ことで、新田さんは「(ブドウ狩りでは)粒もぎ(で食べるのが)がオススメ。皮と実の間がおいしいので、皮をぶちゅーっとつぶして味わって」と身振り手振りで教えていた。
また、新鮮な会津産野菜を食べさせてくれる、評判のイタリアンレストラン「リストランテ パパカルド」もある。矢口一二三オーナーシェフの「うちの料理は農家あってのレストラン。ですから風評被害は心苦しい」という話に耳を傾けながら、佐藤さんは10種の野菜をのせた定番メニュー「会津野菜のペペロンチーノ風」にフォークをからませた。一度食べたら忘れられないほど野菜には甘みがあり、その野菜はすべて矢口シェフが「どれだけ愛情を込めて育てているか」という基準から直接仕入れているものだという。地元の人たちからのさまざまな思いに触れ、一日をふりかえった佐藤さんはこう話していた。
10種の野菜をのせた「会津野菜のペペロンチーノ風」
「今日市内をまわってみて、どなたも熱い思いをもっていましたし、人のあたたかい部分に触れられたのがよかった。あらためて福島県が好きになれたと思います。。地震の影響が落ち着いてきている一方で風評被害は残り、県外の人には現状が伝わりにくく、はがゆさがあった。(今日のような)地元の人が考えている、生の声をどんどん伝えていきたい。誰もが『郷土愛』をもっていると思う。故郷を愛する気持ちを伝えながら、少しでも福島の素晴らしさを多くの人にわかってもらえたらうれしい」