原発「大キリン」で一気呵成 三一グループの「実像と野望」

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   高さ62メートルの巨大コンクリートポンプ車が福島第1原発の冷却作業で注目を集めた。通称「大キリン」と呼ばれるこの特殊車両を無償提供したのが、中国の大手重機メーカー大手「三一重工」だ。今回は、知る人ぞ知るこの国際企業の実像に現地取材で迫ってみる。

「5年後には、海外比率を40%まで引き上げたい」

コンクリートポンプ車の組み立て工場(湖南省長沙市)
コンクリートポンプ車の組み立て工場(湖南省長沙市)

   「三一重工」を中核とする三一グループは1989年に梁穏根氏(現会長)らによって設立され、2011年には前年比59.4%増となる800億元(約9970億円)の売り上げを見込む建設機械グループ大手。湖南省長沙に本社を置き、上海、北京など5か所にも製造の拠点がある。日本(三一日本)を含めた海外の拠点も30か国以上にのぼり、グループ従業員は6万人を下らない。

   2010年にチリのサンホセ鉱山で発生した崩落事故で、地下深くに閉じ込められた作業員の救出にひと役買ったのも「三一重工」の超大型クレーンだった。今回、福島原発に投入された「大キリン」しかりだが、なぜ中国企業の重機でなければだめなのか。それは、中国のビル工法の特殊性がある。中国のビル建設では、主に高所からコンクリートを流し込む手法がとられるため、アームの長いポンプ車はポピュラーといっていいのだ。

   主力のコンクリートポンプ車は中国国内シェアの57%を占め、生産・販売台数は世界一。油圧ショベルなどの建設機械を110以上の国に輸出するグローバル企業だが、同グループの本格的な海外展開はまだこれから。現段階における海外比率は約10%しかなく、圧倒的に国内需要が占めている。三一グループの海外事業を統括する周福貴高級副総裁は、「海外展開を進めることは、売り上げへの貢献だけでなく、製品の品質向上にもつながる」としたうえで、「5年後には、海外比率を40%まで引き上げたい」と、海外展開により力を入れていく方針を明らかにした。

「日本との協力欠かせない」

会見した向文波総裁
会見した向文波総裁

   会見で向文波総裁は、もっとも重視する市場として、中東や南アフリカ、東南アジアといった建設需要の伸びている地域を挙げた。「三一重工」は現在、ブラジルやインドに工場を建設中で、将来は世界30か国で生産拠点や販売・アフターサービスのネットワークを構築していく予定だという。

   もちろん、日本進出も視野に入れている。品質やサービスに対する要求の厳しい日本の市場に打って出ることで、製品やサービスの品質を高め、他国への展開に弾みをつけたいというのが狙いだ。コンクリートポンプ車やクローラクレーン車など、優位性のある製品を販売していく計画で、いま「三一日本」を通じ、販売ネットワークの構築を検討している。もともと、部品の75~80%を日本のメーカーから調達するなど下地は築いており、向総裁は「今後の発展に日本の協力は必要不可欠」と声のトーンを高めた。

   いずれにしても、福島に贈った「大キリン」が、結果的に格好のデモンストレーションになったのは言うまでもないだろう。

人道的な視点からの企業活動

   広さ330平方キロメートルという広大な敷地に鎮座する長沙の本社工場には、入り口を始め、工場内部のあちらこちらに、同社のスローガンである「品質改変世界」の文字が躍る。「品質は世界を変える」という意味だが、開発部門を統括する易小剛執行総裁は次のように詳説した。

「『品質』には、『製品の品質』のほかに『社員の人間としての素質』という意味があるが、四川大地震やチリ鉱山事故、福島原発事故といった災害に対する当社の迅速な対応には、常に人道的な視点から企業活動を行いたいとの思いも込められている」

   「大キリン」の無償提供も、こうした企業理念のもと、役員の全会一致で決定したといい、向総裁は「宣伝とはまったく考えていない。もちろん、今回のことが日本の市場開拓のきっかけになるのであれば、それはうれしく思う」と語り、表情を緩めた。

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