東京・吉原の地が、かつて民謡の「聖地」であったことを、どれくらいの人が覚えているだろうか。
江戸時代から吉原遊郭として栄えたこの場所も、戦後の一時期、プロの歌い手だけでなく素人も舞台にあがり、自慢のノドを披露する「民謡酒場」が軒を連ねていた。踊り子の多くは主に東北出身者で、中学を出ると、夢とあこがれを抱いてやってきた金の卵だ。まだ、テレビがなく、娯楽も少ない時代。集団就職組を含め、郷愁を感じさせてくれる「民謡酒場」が、心にやすらぎを与える場となったのは自然の成り行きだろう。
ヤマハミュージックメディアが2010年10月27日に発売した単行本『民謡酒場という青春―高度経済成長を支えた唄たち-高度経済成長を支えた唄たち』(著・山村基毅)には、そのあたりの事情が詳しい。
人物インタビューを得意とする山村氏が、高度経済成長を担った原動力ともいえる「民謡酒場」の系譜をたどるべく、関係者を探し、当時の様子を聞き込んだ。ふんだんに盛り込まれた懐かしい30年代の写真には、元気な日本人の姿があふれている。
単行本(四六判縦版)、336ページ。定価1890円。