日本で最初のHIV感染者が報告されてから25年の歳月がたった。現在、日本全国にいるHIV感染者/エイズ患者の総数は、薬害エイズ事件の被害による人を含め、1万9000人余りにも上る。実際、国内の新規感染者はというと、1995年までは毎年200人以下だったのだが、2001年には621人、2005年には832人、2009年には1021人と確実に増加しているのだ。
こうした現実とは裏腹に、我々は日を追うごとにエイズへの関心を薄れさせている。それには、複数の抗HIV薬を組み合わせた「多剤併用療法」なる治療法が確立し、年々、エイズによる死亡者が減ってきているという背景があった。
『神の棄てた裸体』(新潮社)『絶対貧困』(光文社)など、鋭い視点と独特の感性で平和の中に潜む「陰」を暴くノンフィクション作家・石井光太氏が次に目を向けたのがこの「HIV感染者」たちの現実だ。石井氏は、2010年12月1日に上梓した『感染宣告』(講談社)で、数多くのHIV感染者やその家族、関係者に取材を重ね、そのあまりに衝撃的な現実を伝えている。顔の醜さから異性との恋愛をあきらめ、同姓相手に性欲を満たすうちに発病した者、エイズで死ぬ恐怖から精神を病み、新妻にDVを繰り返した挙句、首をつった彫刻家、さらには、結婚・妊娠まで夫にHIV感染の事実を言えず、打ち明けた結果、冷たくされておなかの中の子どもともども「事故死」した女性など、エイズが「過去」のものではなく、「現実」の問題であることを証明する案件が並ぶ。
「死」の恐怖からは遠ざかったものの、エイズが人々の人生を大きく変えてしまう危険性をもっていることに何ら変わりはないのだ。
単行本、306ページ。定価1575円。