『女子アナ・吏良(りら)の海上自衛隊 メンタルヘルス奮闘記』
2009年(平成21年)の自殺者数は、前年よりも596人増えて3万2845人と、1978年(昭和53年)に統計を初めて以来、5番目に多かった。自殺者が3万人を超えるのも1998年から12年連続となっている。これは、世界でもワーストに数えられる発生率なのだが、ショックなのは自殺原因の9割以上が「うつ病」などの精神疾患であるということだ。
そこで、日本の自衛隊(陸空海)における自殺者の数をみてみると、驚くことに年間約100人に上っている。他省庁の公務員の2倍の発生率だ。中でも、海上自衛隊の自殺者は陸空に比べて多く、2007年度は23件で過去最多だった。
なぜ、「海自」に自殺者が多いのか?
講談社から、2010年12月6日に発売され、話題を呼んでいる新刊本『女子アナ・吏良(りら)の海上自衛隊 メンタルヘルス奮闘記』(著・山下吏良)にそのあたりの事情が詳しい。ポイントをかいつまむと、艦は一度出港すると何か月も母港に戻らず艦の中で過ごすことになり、気分転換ができず、こじれた人間関係も修復しにくい。さらには、狭く、限られた環境の中での「上司からの指導」は、ときに「いじめ」を受けていると感じやすく、うつを発症する要因になりやすい――。
同書の著者・山下さんはテレビ大阪報道部の記者やNHKでのニュースキャスターを経て、2007年10月、海上自衛隊に入隊している。現在の配属先、佐世保地方総監部での担当はメンタルヘルス。もちろん、山下さんは入隊前に大学院で臨床心理学を履修し、臨床心理士試験にも合格していた。
本の中でさらされる「海自」隊員が抱える苦悩、過酷な現実は、大きな驚きをもって伝わってくる。尖閣諸島の事件があったばかりだけに、読んでおきたい一冊だ。
単行本、266ページ。定価1800円。