元朝日新聞記者で厚生省(当時)を主に担当し、日本の医療事情に精通した辰濃哲郎氏は、不本意な形で「朝日」を退社した。だが、それはこの本を書くために辞めたと言っていいだろう。厚生省を担当する記者にとって「日本医師会」(日医)はあまりにも大きすぎる存在であり、手をかざしながらも視線を外せない。辰濃氏は、自身を「拾ってくれた」という医薬経済社の若い記者たちと共に、日医という「本丸」の、その巨体の知られざる実像を探るに及んだ。
やがて、その成果は、辰濃氏がそれまでに「月刊現代」(講談社)や「AERA」(朝日新聞出版)に寄せた記事の内容を踏まえ、大幅に加筆・修正と書き下ろしの追加を施し、全体を再構成した医薬経済社の新刊本『歪んだ権威』(著・辰濃哲郎&医薬経済編集部、2010年9月28日発売)となって日の目を見ることになる。
同書には、日医の「暗部」が赤裸々に綴られている。「国民のための医療」を旗印に掲げながらも、その実、医師らの待遇の維持・向上に、活動の大半は向けられていた。魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく日本医師会長選、政党との癒着・・・。白衣を脱いだ医者たちは、「真の医療」を希求する国民の声をよそに、テレビドラマを地でいく壮絶な「権力闘争」を繰り広げていたのだ。
あとがきにはこんな記述がある。
「些細な事実を整理しながら全体を俯瞰してみて、始めて見えてくるものがある。それが、過去の会長選をめぐる権力闘争から生まれた、積怨の構図だった」
単行本、421ページ。定価1890円。