友達の家に泊めてもらった時、夜寝る前に欲しいものはない? 大丈夫? と、チェックに来てくれたお母さんが、「Sweet Dreams. Don't let the bed bug bite」と、子供に話しかけるように言ってくれた言葉の、「ベッド・バグ・バイト」が韻を踏んでいるようで、かわいいなぁと思ったものでした。
ところが、そのベッドバグが、現在、アメリカで猛威をふるっています。日本では、南京虫あるいは床じらみと呼ばれているこの虫は、小さくて、平べったい茶色の虫。布団の縫い目やベッドのマットレスの隙間に隠れ、人間の血を吸って生きています。
あまりの被害で捜査犬が大活躍
テキサス州のフォートワース市では、市が1年かけてベッドバグ除去に5000万円をかけたが成功せず、とうとう200人の住民が永久にアパートから退去することになりましたし、オハイオ州では、かつて子供への害があると禁止された殺虫剤「propoxur」の使用許可を、環境保護庁へ申請したほどの被害が拡大中。もちろん、これは許可されていませんが。
中でも、人口密度の高いニューヨークの被害は深刻です。去年1年間だけでも1万1000件もの苦情が訴えられ、若者に人気のカジュアル洋品店「アバクロンビー&フィッチ」とその弟ブランド「ホリスター」は、ベッドバグ騒動で店舗が閉鎖され、この影響で株価も下がるという事態にまで発展。スーパーモデルを使うコマーシャルで有名なビクトリアズ・シークレットや、エンパイヤーステイツビルでもベッドバグがみつかり、市内で最も大きいタイムズスクエアにある映画館も除去のために閉鎖されました。
この害虫の発見に貢献しているのが、ベッドバグ用に特別に訓練された犬。1回の出動で350ドルを稼ぐそう。そして、発見された後のベッドバグ除去には、窓などを完全にふさぎ、家中を華氏120度に熱してドライサウナ状態にして焼き殺すか、二酸化炭素で凍らせて除去する方法が取られています。ちなみに1回の駆除代金は800~1200ドルもかかるらしい。
「ベッドバグは血を吸わなくても、1年間生きられる生命力があるのです。しかし、他の虫のように病原菌を媒介するわけではないんですよ」とは、アメリカ自然史博物館のルイス・ソーキンさん。NYのベッドバグのオーソリティで、彼のオフィスには3000匹のベッドバグがいます。
しかし、どうして今、ベッドバグが大発生しているのか、真相はよくわかっていません。第2次世界大戦後、DDT(有機塩素系の殺虫剤)の使用で、ベッドバグは絶滅したかに思われましたが、殺虫剤の耐性ができたのでは、とする意見も出ています。