サッカーファンなら「家本政明」という名を聞くと、さまざまな思いが込みあげるのではないだろうか。
2010年5月24日、サッカーの聖地ともいわれる英ウェンブリースタジアムで、イングランド対メキシコの国際親善試合が行われた。W杯を前にした重要な試合で主審を務めたのがプロフェッショナルレフェリーである家本氏で、これは日本人レフェリー初となる快挙。試合は3―1でイングランドが勝利、家本氏の評価も上々だった。このときを「天国」とすると、家本氏は2年前に「地獄」をみている。
08年3月1日のゼロックススーパーカップ決勝、広島対鹿島。家本氏が笛を吹いたこの試合は、3人の退場と警告11枚を出す荒れた試合となり、双方のチームから不満の声が噴出する騒ぎとなった。日本サッカー協会は、家本氏に対し、混乱をさけるために無期限でJリーグの主審を割り当てない方針を決定。同年6月にはJ2愛媛対水戸戦でJリーグの試合に復帰するのだが、それまでの間は針のむしろに座るような思いを経験し、妊娠していた夫人はストレスなどから流産した。家本氏が「俺、もう辞めるわ」と夫人に漏らしたのもムリはなかった。
このほど、東邦出版から発売された『主審告白』(2010年8月12日、単行本240ページ)が発売され、話題を呼んでいる。一時、ファンからもメディアからも関係者からも疎まれる立場に陥った家本氏が、輝ける舞台に復帰するまでのすべてを赤裸々に語る一冊だ。また、一連の騒動だけでなく、Jリーグのクラブチーム職員やレフェリーを経験している「現場」からみた主張、提言などもふんだんに盛り込まれている。
定価1575円。