ドゥルス・ポンテス
『モメントス』
2枚組
OMCX-1244/5
3200円
8月4日発売
オーマガトキ/コロムビアミュージックエンタテインメント
戦後の一時期、日本はなぜか世界の音楽の「坩堝(るつぼ)」となっていた。
ジャズを中心としたアメリカン・エンタテインメントが中心だったのはたしかだが、決してそれだけではなかった。
いまでは一部の好事家のものと思われがちなシャンソンやカンツォーネ、ファドといったヨーロッパの音源もアルゼンチン・タンゴもなぜか、当時の日本ではアメリカン・エンタテインメントと同等、否、それ以上の受け入れられ方をしていた記憶がある。
戦前・戦中にはアメリカやヨーロッパの音楽といえば大半が敵性音楽だったわけで、戦後になって規制が外れて一気に音源が日本に流れ込み、それぞれに支持者が生まれ、横並びになったということなのだろう。が、それにしても本当に「坩堝」だった。ラジオから流れる音楽は、日本の伝統歌謡から欧米のモダンなポップに至るまでなんでもありだったのだ。
結局は売れ筋のジャズも含めたアメリカン・ポップ・ミュージック、英語圏の音源が主流になり、他の音源は排除されていったのがこの50年の歴史だ。英語のグローバル言語化の勢いが大きかったし、他の言語は日本の中でローカル化し、その後は音楽も尻すぼみになった。
だが、日本で排除された音楽がなくなったのかといえば、そんなことはないのであって、それぞれのエリアで力強く今の音楽としてある。
ポルトガルの美空ひばりを継承する40歳
そんな中で、最近素晴らしい音源と出合った。ポルトガル歌謡ファドの今を歌うドゥルス・ポンテスの2枚組アルバム『モメントス』だ。
ファドというと、ポルトガルの美空ひばりと言われた(日本人が勝手に言っているだけだったが)アマリア・ロドリゲスを思い出す人が多いと思うが、ドゥルス・ポンテスはアマリアを継承する現在40歳の気鋭の歌姫。
なぜ年齢を出すのかと言えば、まさに脂の乗り切った年齢だから。今のドゥルスを聴くことが、おそらく彼女の最高の歌を聴くことになると思うのだ。キャリア20年の集大成と同時に、ここ2年間のライヴ音源からセレクトした楽曲やさまざまなアーティストたちとのコラボ楽曲などが収録されている。
たしかにファドなのだが、そのスケールは地中海をカヴァーし、ヨーロッパ全土をカヴァーしていると言ってもよい。
世界には、思いもかけず心を奪われる歌がある。
加藤 普
【モメントス 収録曲】
DISC 1
1. ファディーニョ・セラーノ
2. 緑の留め針、緑のマスト
3. ジュリア・ガルデリア(私の叔父カルロス・ポンテスに捧ぐ)
4. 不安
5. 涙
6. 難船
7. マヤのファド
8. リシュボアの女
9. 海の歌
DISC 2
1. 子守唄
2. 海から生れしもの
3. 来る年
4. この海で
5. 私たちはみなひとつ
6. ポルトガルへの愛/あなたの愛
7. 海とあなた
8. ヌード