世界のためにできることは何か ジャズ巨匠、突き抜けた「イマジン」

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ハービー・ハンコック
イマジン・プロジェクト
SICP-2773
2520円
7月21日発売
ソニー・クラシカル


   それほどジャズに興味はなかった。1960年代のジャズには特に興味がなかった。新しい音楽としてロックが台頭してきた頃で、ジャズにまで興味が回らなかったのだろう。

   でも、今年70歳になるハービー・ハンコックは別だった。62年の21歳当時に発表した『Takin' Off』に収録された「Watermelon Man」は掛け値なしにカッコよかった。その後、マイルス・デイヴィスと行動を共にするが、個人として活動を再開した後の73年に発表した『Head Hunters』、83年の『Future Shock』収録の「Rock it」など、ジャズにこだわらない音楽好きにはたまらない作品を聴かせてくれた。

   ハービー・ハンコックの何が良いのかといえば、ジャズ・ファンには叱られるかもしれないが、ジャンルにこだわらず、道具にこだわらず、人にこだわらず、ひたすら楽しく良い音楽を聴かせてくれることだろうと思う。

   何回と数えるのも面倒になるほどのグラミー賞の常連であり、グラミー賞節目の2008年「第50回グラミー賞」では最優秀アルバム賞を獲得している。

   また日本とも縁が深く、信仰のルーツが日本にあることも有名だが、1975年6月25日のヘッド・ハンターズ広島公演後、原爆被爆者に捧げるピアノソロ曲「平和の街のために」を徹夜で作曲、翌日、広島市に寄贈するなどしている。2003年から数年間は、アジア最大級のジャズイベント「東京Jazz」の総合プロデュースを担当していた。

コンセプトは「平和と地球規模の責任」

   そのハービー・ハンコックが、これまでの活動をスケールアップしたような形で1枚のCDを届けてくれた。それが『イマジン・プロジェクト』だ。

   「平和と地球規模の責任」という極めて今日的な命題をアルバム・コンセプトに、音楽ジャンルに拘泥せず人選したミュージシャンに参加を要請し、世界各地でレコーディングと映像プロジェクトを同時進行的に制作したという。アルバムの監修にはラリー・クラインが、映像監修にはアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞のアレックス・ギブニー監督が参加している。

   参加ミュージシャンは、収録曲目の中で紹介するとして、何はともあれ、いまこうした音楽を突き抜けたコンセプトでアルバムをつくれるアーティストは数えるほど。ハービー・ハンコックは、いま世界のために音楽で何が出来るかを具体的に提示して見せたわけで、その思いの深さには頭が下がる。

加藤 普

【イマジン・プロジェクト 収録曲】
1. イマジン (feat.シール、ピンク、コノノNo.1、ジェフ・ベック、ウームー・サンガレ、インディア・アリー、リオーネル・ルエケ、マーカス・ミラー)
2. ドント・ギヴ・アップ (feat.ジョン・レジェンド、ピンク)
3. テンポ・ヂ・アモール/愛の季節 (feat.セウ)
4. スペース・キャプテン (feat.デレク・トラックス、スーザン・テデスキ)
5. 時代は変る (feat.チーフタンズ、トゥマニ・ジャパテ、リサ・ハニガン )
6. ラ・ティエラ (feat.フアネス)
7. 死はここに/エクソダス (feat.ロス・ロボス、ティナリウェン、ケイナーン)
8. トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ (feat.デイヴ・マシューズ)
9. チェンジ・イズ・ゴナ・カム (feat.ジェームス・モリソン)
10. ザ・ソング・ゴーズ・オン (feat.アヌーシュカ・シャンカール、チャカ・カーン、ウエイン・ショーター、K.S.チットラ)

◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70~80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。

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