「半歩前に行こう」というスピリットで実験に参加
『生命保険のカラクリ』を全文公開することに決めたのは、ネットとの親和性が高いとみているからだ。著者の岩瀬さんはネット専業生保の経営者で、ブログやツイッターも積極的に活用しているため、ネットでの知名度が高い。同書の編集を担当した樋渡優子さんは、
「この本はここまで6刷、2万9000部と好調だが、その1割以上がアマゾンで売れている。約700点ある文春新書のなかで、アマゾンの売り上げは4か月連続1位。従来の本とは違う特異な動き方をしている」
と同書の特徴を説明する。本の内容も時事ネタではなく、生命保険のしくみを分かりやすく解説したものなので、PDFファイルを読んで気に入ってくれたら「家庭に1冊置いておこう」と書籍を購入してくれるのではないか、という期待もある。
書籍の無料公開となると、著者が二の足を踏む場合も多いだろう。だが、今回「全文無料公開」を提案したのは、執筆した岩瀬さんだ。
「生命保険という商品は、保険会社と顧客の間に情報の非対称性があるため、アメリカでは保険契約の際にバイヤーズガイドの交付が義務づけられている。この本を通して、できるだけ多くの人に正しい保険の仕組みを知ってもらいたい」
と動機を語る。その岩瀬さんは「PDFをネットで公開すれば、書店に行かない人も『立ち読み』ができるので、売り上げがもっと増えるはず」と強気だが、飯窪編集長は「やってみないとわからない」と慎重な見方だ。編集担当の樋渡さんも
「最近の電子書籍に向かう流れは『黒船来航』みたいな感じで、震えている」
と緊張感を隠さない。だが、その一方で「一丸となって船出するというワクワクする気持ちもある」という。
「従来のようにみんなが新聞を読んでいて、新聞広告を出していればいいという時代ではないというのはわかっている。今回は『半歩前に行こう』というスピリットで、壮大な実験に参加しようということ。そう考えると、面白い時代なのかなと思う」