『田中宏和さん』
自分と「同姓同名」の人が何者なのか気になって、つい検索してしまった経験はないだろうか。そんな「同姓同名」の人を集めるのが面白すぎて、ライフワークとなってしまったサラリーマン・田中宏和さんが、他13人の田中宏和さんとつくりあげた『田中宏和さん』(リーダーズノート刊)が2010年2月25日に発売された。
きっかけは、1994年のプロ野球ドラフト会議だった。近鉄バファローズの第1位で指名されたのは、奈良・桜井商業高校の田中宏和選手。これを見ていた田中さんは、「憧れのプロ野球選手になれた」気がしたのだという。他人なのに、たまたま同じ名前というだけで。「なんだか楽しいぞ」。
「WEBの田中宏和」「作曲家の田中宏和」など総力を結集
それ以降、「同姓同名」の魅力にすっかりとりつかれた田中さんは「田中宏和集め」を開始する。95年から毎年「収集の成果」を年賀状で報告するようになった。
この「年賀所の軌跡」をウェブ上で公開すると、多くの反響を呼んだ。くわえて、多くの「田中宏和」さんから声をかけられるように。田中さんは「ほぼ幹事の田中宏和」となり、ウェブサイト「田中宏和.com」を開設。こうした運動は、メディアにも取り上げられるようになり、ついに書籍化された。それが、今回の『田中宏和さん』だ。
本には、14人の田中宏和さんが関わっている。例えば、装丁はデザイン会社を経営する「渋谷の田中宏和」、撮影やウェブサイトとの連携は制作会社経営の「WEBの田中宏和」と「映像作家の田中宏和」、「田中宏和のうた」作曲は「作曲家の田中宏和」。「田中宏和」だけで、結構なんでもできてしまう。
さらに、同書では書籍として初めてAR(拡張現実)を使用している。「田中宏和.com」からARシステムを起動させ、本のところどころにある「ARマーカー」をウェブカメラで映すと、さまざまな「田中宏和」が浮かび上がる仕組みだ。
これでもかとばかりに「田中宏和ワールド」が広がるユニークな一冊。これを読むと、もしかしたら「同姓同名集め」の魅力が少しだけ、分かるかもしれない。