「赤ちゃん抱いて、胸出したままゲームやってた」
「飯も週に1回しか食べなくて、29キロやせた」
「ヒゲがへそまで伸びた」
そうした、ネットゲームに依存する「廃人」の究極型、「廃神」がいるという。その姿をありのままに描いた単行本『僕の見たネトゲ廃神』(リーダーズノート刊)が2010年1月31日に発売された。筆者は17歳の西村本気(にしむらもとき)さん。自身もネットゲーム「マビノギ」の中で生きた「廃人」だった。
「廃人でも足元に及ばない、雲の上の存在」
西村さんは、両親の離婚と父親のDVを機にネットゲームへ逃げ込んだ。「現実世界はどうでもいい」と感じ、弟以外とはほとんどしゃべらない。ゲーム内の通貨を稼ぐために小学校へ行くのを止め、4時間弱の睡眠時間以外は、ほとんどを「仮想世界」の中で過ごしたのだという。それでもゲームを極めることはできなかった。
だが、ゲーム内で不可能と思われる事ができてしまう「廃人でも足元に及ばない、雲の上の存在」(=廃神)たちは確実に存在する。「リアル(現実)とネトゲを往来できる機動力」を身に付けた西村さんは、著書内で数々の「廃神」のベールをはがしていく。
「バイク乗ってるときも、戦車から撃たれる気がする」
例えば、トイレに行く時間も惜しく、空き缶で小尿を済ます「ボトラー」。「ファイナルファンタジー11」で最強レベルのキャラクターを育成した、40代無職の男性がそうだという。4畳半の部屋で、黒く変色した布団、高く積まれた衣服とピザの箱、ゴキブリ駆除剤とネズミ捕り機と生活をともにしている。「リアルは完全に崩壊していた」と西村さんは表現する。
他にも、10万円以上で取り引きされているアイテムを多く持ち、それらをさばくことで「がっぽり儲けた」という「美人廃神」の20歳女性や、戦争ゲームを600時間以上プレーし世界ランキングを保持、リアルでもゲームと混同し
「家の窓から撃たれるんじゃないかって思う」
「バイク乗ってるときも、戦車から撃たれる気がする」
という男性など、数々の「廃神」の姿が赤裸々に綴られている。
プロローグで西村さんは、「人生棄てられますか?」と読者に問いかけている。だが、苦しみや孤独を抱えた「廃神」、あるいはリアルと両立させている「立派な廃神」に会った後の最終章では「人生ってそう捨てたもんじゃないかもしれない」。17歳が切り取った「現代」とはどのようなものだったのか。注目の一冊だ。<モノウォッチ>