「宝くじに当たったら?」の質問に、「家を買いたい。」「旅行に行きたい。」「借金を返す。」「五番街で値札を見ないで買物したい。」などなど、言いたい事を言いまくる友達の中で、一人「学校に行きたい。」と、答えた人がいました。
その時は、「なんで~?」と、皆と一緒になって囃し立てていましたが、最近、しみじみその気持ちが、よくかわかるようになってきました。
ニューヨークの住民だと特別価格
アメリカの大学には、各大学に生涯教育のプログラムがたくさん準備されています。
学生時代は、「勉強は嫌だ~」と思っていたのに、この歳になると、誰に強制されるわけでない、自分の好きな事を学ぶ楽しさを感じるようになりました。
エクステンションと呼ばれる大学のコースは、入学試験もトッフルの必要もなく、授業料を払い込めばOK。おまけに、州立大学は、ニューヨークの住民だと特別価格になるのです。
こちらに来てから、ニューヨーク大学、コロンビア大学、市立のクイーンズカレッジとハンターカレッジ、アート系のSVA(おぉ、結構、通っていました。私は学校マニアか?)と、通い。イタリア語やフランス語、フォトショップのクラスなど、ほとんどカルチャーセンターのようなお遊び感覚の授業を受けてきましたが、自分で洋服が縫えるようになりたいと、州立ファッション工科大学の門を叩いてしまいました。
ここは、通称FIT(エフ・アイ・ティー)。カルバン・クライン、マイケル・コース、カロリーナ・ヘレラなど、ファッション界の大物デザイナーが卒業生に名を連ねており、NYのファッションデザイン界では一目おかれる存在です。
クビにできない制度?
パリ在住の弁護士のダイアナは、このために年休を取ってやってきた
ずらりと並んだ最終作品。3週間前には製図もできなかった生徒の作品です。
いつものように、お気楽ムード満点で、冬学期の初日を迎えました。
しかし、冬学期は、正規の学期のカリキュラムを1ヶ月で終える短期集中コースだったのです。授業は月から木曜まで毎日、9時から1時まで。通常学期の1週間が1日の計算で宿題が容赦なく出されます。
それを知り、このクラスをドロップして、春学期の夜のコースにかえてもらうと思った私は、とりあえず初日の授業だけを受けに教室に入りました。
アメリカには、テニアと呼ばれる正規の教授になると、クビにできない制度があります。今まで取った洋裁基礎、立体裁断のクラスの先生達は、教える情熱はとうの昔に無くした、怒りっぽい76歳のミセス・グランピー(怒りんぼう)先生など、テニアのポジションに甘えて居座る老教授ばかり。
期待しないで「平面パターン基礎」の教室にはいると、先生は時間前に来て準備中。ユーモアのセンスあり、教える情熱に溢れ、授業も丁寧で、すごい情報量なのです。このチャンスを逃しては!と、1分前の決心も忘れ、降りようと思っていた船に、いそいそ乗り込んでしまったのでした。
このクラス、短期集中のためか、世界中から集まってきた生徒でいっぱい。
年休を使ってパリから来た弁護士のダイアナ、フランス育ちで、すでに自分のファッションラインを持っているマリアン(って、プロじゃない!?)、大学でファッションデザインの講師をしているジュン、ファッションメーカーに勤めるヘイスン、そして、ファッションの大学院を目指すヘイワンは韓国から。エクアドル人のエイミーは両親がお針子さん、ネットでヴィンテージの服地を販売するロシア人のジェイニー、中国からのスージェンなどの外人勢、アメリカ人の学生も、すでに他大学でファッションを履修した人が多いという超レベルの高いクラスメート達。
プロフェッサーは、ニコニコしながら「登校は夜中の2時まで開校しています。」
それを、ジョークと笑っていたのは、初日だけ。製図したり、モスリンと格闘したり、気がついたら、食事も忘れて集中していました。
不況で職を失ったり、子供がいたり、仕事が忙しすぎたりすると、こんな風に大学で授業を取るなんて事は不可能ですよね。時計が午前0時を過ぎても、朝、学校に向かう時も、好きな事に没頭できるのは、本当に幸せだと感じた日々でした。
現在は、テイラードと帽子の2クラス。テイラードのクラスには、老眼鏡をかけたクラスメートが3人もいるんですよ。
坂本真理